第16章 気になる過去 ❦
「ん、」
ゆっくりと目を開けると、ぼやけた視界に瞬く。
あったかい、と首元までジップアップが上げられたジャージの襟元に顔を埋める。
一番大事なものを包むなら一等上等なもの、と言った雅治の言葉に、ふふ、と笑ってジャージに包まれる。
シングル布団の上で右に左にと転がっていると
「わっ!」
目の前に現れた素足に驚いて、視線を上げる。
「起きちょったか」
「おっおはようございますっ」
「なにしちゅうが?」
「いえ、ちょっと浸ってました」
シャワーを浴びたのか、腰にタオルを巻いただけで濡れた髪を拭きながら見下ろす雅治。
ストン、と横に腰を落とされ、み、見えるっ!と背中を向ける。
「今更、何を言うぜよ。
昨日は散々...」
「わー!わー!わー!
朝っ!さわやかな朝ですからっ」
「こんな土砂降りに爽やかもへったくれもないぜよ」
「え?」
ベランダの窓を見てみる。
カーテンが閉められているが、僅かに静寂となった室内には、外で降る雨がトタンに当たるか屋根からの排水溝を伝う音がしている。
「具合、どうじゃ」
後ろから髪を撫でる温かい手。
「うん。
なんともないです」
「そうか
痛みやせんか?」
「うん」
「なら、よか」
シャワー使うか?と聞かれ、うん、と起き上がった。
「雅治さん、お仕事は?」
「やる気は無いの」
「あるならやりましょう」
私もメール見なきゃ、と乱れた布団を軽く整える。
「何時だ...わっもう9時になる
あ、シャワー、お借りします」
「借りるもなにも、今はここが家じゃろうが」
上がったらコーヒー淹れてくんなっせ、と頭を撫でた雅治。
お風呂から上がると、布団は片付けられていて、仕事の準備をした雅治が髪を結っていた。
「なんじゃ?」
ヘアゴムを口に咥え、伸びた襟足を手でまとめている。
「切りたい」
チョン、て、と指で鋏を作る繭結。
「やめんしゃい。
切ったら...何が起こるかわからんぜよ」
「雅治さん、ラ◯ン◯ェ◯だった!?」
「魔法使いと違うぜよ」
「ギリ29歳だから?」
「...17ん時には、素質、失ぅとるぜよ」
「爽やかな朝とは?」
「へったくれもない言うたじゃろ」
普通に下ネタです、とお湯を沸かして繭結の部屋から持ってきたインスタントコーヒーをマグカップにスプーンで掬い入れた。
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