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カクテルとキャラメル・ラ・テ

第15章 覚悟の時



「言うたじゃろう。
 鎧じゃ、と」
「うん」
「そのジャージを脱ぐ時は、『覚悟』の時ぜよ」
「『覚悟』?」

半端に開けられたジップアップ。

「胸の校章は誇り。
 肩のイニシャルロゴは覚悟。
 ウエアにも同じデザインがある。
 その二つを着る時は、『挑む』時じゃ。
 ウエアとジャージを着たら、挑まにゃならん。
 そして、それに『負けない』と覚悟ができた時、ジャージを脱いで、コートに入る。
 『常勝』の名に恥じぬ試合をせにゃならんと、その身一つでラケットを手にするんじゃ」
「ジョウ、ショー...」
「『常に勝つ』で常勝じゃ
 常勝、立海大。
 それを脱ぐ言うんは、覚悟の証ぜよ」


約10年は経過しているものと思われるそれは、ほつれもなければ、汚れやシミも無い。
一人暮らしの雅治が、今でも手元に置いているということは、それほどに大事なもの。

「どうして、そんなに大事なものを...?」
「一番に大事にしたかもんを包むなら、一等上等なもんにしたいじゃろう」

着ときなんせ、と首の一番上まで上げられたジップアップ。

「髪、乾かしんしゃい。
 風邪、ひくぜよ」

ん、と風呂場を顎先で指す雅治に、脱衣所に舞い戻る。


「身一つの、覚悟...」

乾いた髪にドライヤーをしまって、脱衣所の鏡の前で自身と向き合う。

ダボダボのジャージ。
その大きさが、当時の雅治が背負っていた覚悟、そして誇りを示しているように感じた。

(私が、気安く着ていいものじゃない)

丁寧にジップアップを下げ、きちんと畳む。

雅治は、「負けない」覚悟の時と言った。

ならば、自分の『覚悟』はなんだろうか、と考える。


目を閉じ、ゆっくりと呼吸する。

「よし」

鏡の中の自分と頷き合い、畳んだジャージをギュッと抱き締める。

もう一度、ジャージを羽織ってジップアップを首下までしっかり閉めた。

(伝わるかな、)

脱衣所を出る前に立ち止まる。

勝ち負けでは無いけれど、勝負ではある。

誇りは無いけれど、大切にしたい想いはある。


「私の敵は私」

自身の気持ちと雅治の気持ちと向き合う覚悟を胸に。

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