第15章 覚悟の時
「それ、悪なかな」
お水、もういらない?と受け取った空のマグを手に首を傾げる繭結。
「見えそうで見えん言うのは、唆られるもんじゃ」
ん、と視線で差される太腿とシャツの境目。
「...スケベ」
「男じゃきのぉ」
「あれですか。
胸より脚派とかそういうことですか」
「見る分には脚の方がええ。
触るなら...胸も悪ないな」
「微妙な間が気になる」
「尻も捨てがたい」
「警察屋さーん!変態がいますぅ!」
「どこじゃっ!?」
「いや、あなただよっ!
何、しれっと取り締まる側になってんのっ
しかも、その手錠はどこにあった!?」
クレーンゲームの景品ぜよ、とメタルなピンクの手錠を指でくるくると回す雅治。
「なぜそれをゲットしようと思ったのか...
まあ、いいや、軽口叩けるならっクシュンッ」
「濡れたまま走るからじゃ。
まあ、走らせたのは俺か」
許せ、とマグを手に立ち上がる。
「よぉ温ぅなってから出て来んさい」
ポン、と繭結の頭を撫で、雅治は脱衣所を出て行った。
温め直したお湯にゆったりと浸かり、今度は手早く身体を拭くと、脱いだ雅治のTシャツが無い。
代わりにあるのは、いつぞやの立海大付属のジャージ。
新しい下着の上から上着を羽織り、袖の絞りを肘まで上げても弛む袖。
(学生の頃から大っきかったんだ)
チャックを上げる時、裾の裏に刺繍された「仁王 雅治」の字に気づき、ふふ、と笑う。
上がりましたー、と部屋に行くと、カバー付きのタブレットを見ていた目線が上がる。
「あら、眼鏡」
「ん、目は悪くは無いがの。
強い光はあまり得意じゃ無いき」
「雅治さんって日光より月光が似合いますよね」
「そうか?」
なにしてたのー?と背後から肩越しに画面を見る。
「エロ動画見とる」
「うん、その図形?設計図?がそう見えているならあなたは異常です」
3Dの建物が画面の中でくるくると回っている。
「お仕事の?」
そうならばあまり覗き見るのは良くないだろう、と雅治から離れようとしたが、腕を引かれ、雅治の背中に重なるようして膝立ちになる。
「彼ジャーじゃな」
「ふふ、学生の頃、してた?」
「いや」
「そうなの?」
「...大事なもんじゃからな」
「え、あ、ごめんなさい」
ジャージを脱ごうとする繭結を、よか、と止めた。