第15章 覚悟の時
「キリハラ、ああ、立海のメンツと飯食うた時に、俺が変装しとった...」
「んー、あっ!黒髪のくるくる髪のっ!」
「アイツからコレを買い取ってな」
「買いとった?」
雅治さんが選んだ車じゃないの?と、乗り込んだロードスター。
「就職してすぐじゃから、22じゃったか。
子どもができたから結婚すると言って、買い替えで下取りに出そうとしたらしいんじゃが、まあ、これじゃからな。
そういい値がつかんかったんじゃ」
「古い、とか?」
うんにゃ、と首を横に振る雅治。
「エンジン、ライト、ホイール、タイヤ、ラッピング諸々。
改造のしすぎが原因でな」
「あらぁ」
「ちなみに塗り替えたが、元は痛車ぜよ」
「イタ車って、あの、アニメとか漫画のイラストをつけた?」
「ああ。
マニアにでも売ればそれなりになったんじゃろうが、即現金で売りたいと言うからな。
ラッピングを剥がしていいという条件で300万で引き取ってやったんじゃ」
「めっちゃいい先輩!」
じゃろう?と得意げに顎先を上げた雅治。
「当時は松濤のボロアパートに住んどったからな。
ちょうど、会社がテレワークを導入するいうタイミングじゃったから、車も手に入ったし、郊外でよか、と駐車場付きの部屋をさっきん後輩に頼んで見つけてもらって越した」
そんな経緯が、と痛車の面影は欠片もないメタリックグレーの車の歴史を知った。
「それからずっとあの部屋に?」
「まあ、越す理由も無かったからのぉ」
「いいんですか?
水槽とか、せっかく『自分の部屋』ってコーディネートしてたのに」
?と首を傾げる雅治。
「あの水槽は、部屋が万華鏡のようにならんかと置いてみただけじゃからな」
「部屋を、万華鏡...?
あ、そう言えばキーホルダーのそれ、万華鏡ですよね」
車のキーについたキーホルダー。
「よう気づいたの」
「お土産屋さんでよく見るやつですよね?」
貰い物ですか?と繭結に聞かれる。
「...まぁな」
「きっとセンスのいい方だったんですね。
あっそうだ。ちょっとドラッグストアに行っていいですか?
雅治さんのうちには、柔軟剤が無いので...」
「わかったぜよ」
回されたキーにぶら下がったそれが、キラッ、と強く光った。
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