第15章 覚悟の時
「2人入居、オッケーでした」
「すまん。言うてなかったの」
いえいえ、とにこやかに次の資料の説明を始めた。
「その他、疑問点などありませんか?」
フルフルと首を横に振る繭結。
「まあ、通ると思うんで、あとは引っ越しのご準備を、と言うところですかね」
「世話んなったのぉ」
「とんでもないですよ」
今日の手続きは以上です、と見送られ、不動産屋を雅治とあとにする。
「5年ぶりの引っ越しかぁ」
「おんし、八丈島から出てきてずっとあっこか?」
「ですー。
内見にパッと行けないから、ネットで情報漁りまくって、学校休みの土日に本土来て、事前連絡して1日に3件、4件とか内見して、必死に探したなぁ」
懐かしい、と思い出して遠くを見る。
「あ、両親に住所変わるって伝えなきゃ
仕事決めてからにしようかな」
転居届出せば郵便は届くし、と言うと、雅治に止められた。
「転居届は、契約が切れる直前、いや、切れたあとでよか。
人がおらんと気づかれるタイミングと郵便物が入らんくなるタイミングが重なると、『引っ越した』とすぐにバレる。
しばらくは、俺が取りに行くぜよ。
少し置いてから、まずは俺の部屋に転送届ば出しんしゃい。住民票も、できれば非公開手続きするぜよ。すでに警察が介入済みじゃ。受理されるじゃろう
両親には、それから話んしゃい」
納得してなさそうな繭結の頭に手を置く。
「どこから話が漏れるかわからん。
話して余計に心配かけるより、全部片付いてから話した方が、おんしもええじゃろう」
それに、と少し意地の悪そうな笑顔の雅治。
「はちきんぶりが過ぎると八丈島に連れ帰られでもしたら、さすがの俺でもすぐには追いかけきらんぜよ」
「っふふ。来ます?八丈島」
「船、か?」
「汐留からゆりかもめで竹芝に行って、そこからフェリーです」
「汐留...遠かな」
「たぶん遠いのは汐留じゃなくて等々力っ
なんで等々力だったんですか?」
世田谷区出身?と聞かれ、いんや、と首を横に振る。
「前は渋谷のボロアパートに住んどったぜよ。
大学生じゃったし、食って寝るだけできればよかったからのぉ」
「なぜ渋谷から等々力?」
それがなぁ、と雅治は思い出すように視線を上に向けた。