第14章 新たな脅威
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「引っ越すぜよ」
「はい?」
はづきを置いて手を引く雅治に部屋へと連れ帰られると、突如、そう言った。
「きょうだいそろってヒステリーなんか。
ヤバい匂いしかせん」
「それは、」
苦笑いする繭結の後ろの玄関ドアに手をつく。
「考えてみんしゃい。
妹、職場が同じじゃと言うておったな。
んで実家は八王子ナンバー圏内じゃろう。
八王子付近から丸の内まで通勤しとるがか?」
「あ、いや、はづきは確か北千住」
「ド平日の昼間に、北千住在住の丸の内勤務の奴がなして世田谷区におるかっ、
それも、新宿からも杉並からも遠か等々力にっ」
雅治の言葉に、それは、と目が泳ぐ。
「おんし、つけられとったが」
「そ、んなっ」
「そがなかったら、都内で偶然に会うはずがなかろう」
苦しげな表情の雅治を呆然と見上げる。
「危機感ば持ちんしゃいっ
そげなから、おかしかのばっかり引き寄せるんじゃ」
立場わかっとるんがかっ、と繭結を抱き締めて俯く雅治。
「携帯、番号から変えんしゃい。機種もじゃ
家んもんは、できるだけ処分せぇ。
何がつけられとるかわからん。
不動産屋も、俺の今ん部屋を見つけてきたところに変えるぜよ。
どこから話が漏れるかわからんからな」
はあ、とため息をついた雅治。
「ケータじゃなくて、私が疫病神じゃん」
あはは、と雅治から離れる繭結。
「職場に、鷹司さんや澤田さんに迷惑かけて、忍足先生には呆れられて、雅治さんから家まで奪って...
ケータは捕まって、はづきも狂っちゃって...
なんでこうなるのよぉっ!」
放り投げた鞄が、三和土のヒールを倒した。
「なんでぇ」
そのまま座り込んだ繭結が投げた鞄を拾った雅治は、倒れたヒールを起こす。
「疫病神かなんか知らんがの。
俺は神の類は信用せん主義じゃ」
「え?」
「ただ、己の選択を『失敗』にする気はなか」
立ちんせえ、と繭結の腕を引く。
「じゃから、お前さんはこれから俺に聞け。
『どがんしたらええか』と。
そんで、一緒に選ぶぜよ。
おんし一人で選ぶと、ろくな道に行かん。
二人で決めれば、ちぃとはまともな道になるぜよ」
いや、と笑った。
「まともな道に、してみせるぜよ」
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