第14章 新たな脅威
ATMから戻った通帳。
タイショクキン、の記載に、首の皮一枚繋がった、安堵する。
(思ったより出た)
雀の涙と高を括っていたが、心許なかった残高のケタが増したことに喜ぶ。
ホウシュウ、とある初めての「アルバイト代」に、まあこんなもんだよね、とATMの前を離れる。
「早々に定職に就かねば」
渋谷区にある自身が所属する建築事務所に出向いている雅治が、何時頃帰ってくるかなぁ、と、木曜日ならデイリー食材が安いスーパーの袋を持ち直す。
「マユちゃんっ」
雅治以外に知人が住んでいるわけでもない世田谷区で誰が呼ぶ?と辺りをキョロキョロする。
「...はづき」
駆け寄ってくる彼女の兄である慶太の顔が脳裏に浮かび、少し、息が詰まった。
「久しぶり」
「ひさし、ぶり」
あの日以降、慶太がどうなったのか何も知らない。
「受付、辞めたの?」
はづきの問いに、うん、と頷く。
「いま、なにしてるの?」
「えっと、仕事探しながら、内職?的なことを...」
「どこで?」
それは、と言い淀む。
「お兄ちゃんのことだけど、」
ギュッ、とスーパーの袋を握る。
「警察から帰る途中、自殺しようとしたの」
はづきの言葉に、え、と顔を上げる。
「警察から電話があって、身元引受に行ったんだけど、車に乗る直前に走り出して、車道に飛び出して...
お父さんが捕まえたから、ちょっとケガしただけなんだけど。
『死なせろ』って路上で暴れ出して、手に負えないってまた警察に...
精神鑑定受けて、入院の必要があるって、そのまま...」
「入院、してるの?」
「うん」
頷いたはづきに、ホッとした自分を悟られないよう、そう、と腕を擦る。
「ちょっと話せない?」
「え、えっと」
「家、引っ越したの?
そうだ、お兄ちゃんの部屋の鍵、持ってる?」
すでに警察を介して渡したそれに、フルフルと首を横に振る。
「これからのこととかさ、話そうよ。
ほら、私もいるしっ」
「ねえ、待って」
「だって、結婚するんでしょうっ!?」
「そんな、」
「どうしてっ!?
なんでこうなっちゃったの!?」
「はづき、」
「だって、お兄ちゃんのこと好きでしょう!?」
ねえ!と鬼気迫る勢いのはづきの腕に掴まれ、いや!と振り払った。