第13章 新生活
同じ部屋にいながら、各々がそれぞれの業務をこなす。
雅治はもとよりそうダラダラと話す方では無いし、繭結も、初めての仕事ということで集中力が高まっており、また、集中すると口数が減る傾向にあるので、黙々と作業をしている。
時計を確認した雅治は、繭結が作業を始めてから1時間半と少しが経過していることに気付いた。
「繭結」
「...はい」
いつもより遅い返事に、キイ、と椅子から立ち上がる。
パソコンの乗ったローテーブルを挟んだ向かいに座ると、腕をついて、ぐい、と身を乗り出す。
しばらくパソコンを見ていた繭結。
ふと雅治に気付き、わっ、と目を見開いた。
「びっくりした」
「集中しとったのぉ。
昼、過ぎたぜよ」
上からパソコンをのぞき込み、ほれ、と画面の小さな時計を指差す。
「うわっ!ホントだ」
「そう、こん詰めんさんな。
そろそろ休憩にしなっせ」
「わかりました」
んんー!と伸びをすると、お昼どうします?と問いかける。
「何かあったかのぉ」
「そういえば、冷蔵庫にあったみかんって食べました?」
ミカン?と小首をかしげる雅治に、ちょっと待て!と立ち上がり、キッチンに駆け込む繭結。
「っゴミ袋っ!ゴミ袋はどこっ!?」
ゴム手なんて無いよねっ!?と辺りを見回すと、クシャクシャになってキッチンの端にあったポリ袋を掴む。
もおー!と傷んでカビが発生しているそれをポリ袋越しに掴み上げた。
「いつのみかんですか?これ」
ひっくり返してミカンだったものを包むと口を固く縛る。
「燃えるゴミの日は何曜日です?」
「火曜と金曜じゃな」
「金曜まで待つしかないか」
そうだ、と二重にレジ袋に入れて口を縛り、冷凍庫に放り込んだ。
「キッチンアルコールとかあります?」
「買った記憶が無いのぉ」
ですよねぇ、と遠い目。
「ていうか、何のための冷蔵庫ですか。
食材、無さすぎでしょう」
乾麺とかもないんですか?とキッチンの戸棚を開ける。
「基本、外食で済ますからのぉ」
「ノット自炊?」
「ノット自炊じゃ」
さすが年収800万、と昨年ベースで半分にも及ばないな、と自身の稼ぎに不安を抱いた。
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