第13章 新生活
ティロン、と携帯にメールが届く。
バナーの件名に、朝、使ったマグカップ二つを手早く洗って手に取った。
ご応募頂いた求人について、という文面に目を通し、よしっ!とガッツポーズ。
藤波様に依頼させて頂く案件については下記URLを、という文面に、早速パソコンにつく。
添付ファイルの手順書を参考に、業務内容の確認からはじめる。
トイレから出て来た雅治に、お仕事もらいました!と報告する。
「初業務じゃな」
「がんばりますっ」
「扱いがわからんよぉなら、遠慮無く呼ぶといいぜよ」
「頼りにしております」
よっし!と気合充分な繭結に、そう構えんしゃんな、とクシャクシャに頭を撫でる雅治。
「ふふ、雅治さんの手、大きいから安心します」
お仕事始めまーす!と挙手し、まずは手順確認、とフローチャートによる説明書類と動画による紹介の視聴から始めた。
✜
(邪魔はせんといてやるか)
構ってやりたい気がするが、真面目な繭結の事だ。
構いすぎると、仕事にならない!と怒られかねない。
(ちぃとは見倣ってみるかのぉ)
朝食の残りのコーヒーを飲み干し、自身もパソコンの前につくと、キイ、と椅子を寄せて、眼鏡をかけた。
カタカタカタカタ、と繭結に渡したパソコンからのタイプ音が、徐々に軽快になっていくのを聞きながら、なかなか手を出さずに温め続けていた案件にようやく着手することにした。
✜
ああでこうで、といつもの仕事をしていると、うーんっと後ろから背伸びの声。
振り向くと、あ、と気づいた繭結。
「失礼しました」
ごめんなさい、と謝る。
「そげん気ば使いなさんな。
繭結が好きにやってよかぜよ」
「いえ、気を散らせてしまったかと...
あの、本当、集中されたい時とか言ってくださいね?」
出ていきますから、と言った繭結。
「そげな悲しいこと、言いなさんな」
キャスター付きのワークチェアから立ち上がると、休憩に付き合いんしゃい、とベランダに連れ出す。
「どうじゃ?
テレワークも悪ぅなかろう」
「ちょっとありだなぁ、と思い始めてます」
んー!と伸びをした繭結の髪を撫で、今日、初めての一本に火をつけた。