第13章 新生活
退職届を出したこと、転居するつもりであることを話すと、そう、と鷹司は頷いた。
「先へ行くのね」
「はい」
「応援してるわ」
「ありがとうございます」
繭結ちゃん、と呼ばれ、なんで、と驚く。
「もっと早くあなたを知りたかった」
「っ鷹司さん、」
「華都葵よ。
次に会う時は、『鷹司さん』では無くて『華都葵』で会いましょう」
「い、いいんですかっ!?」
「『カヅ』と呼んで。
親しい人は、みんな、そう呼ぶから」
「かっカヅさぁん」
崩れ落ちそうな繭結を抱きとめたカヅ。
「あなたの選択を悔やまないで。
あなたがその選択をしなかったら、出会えなかった人たちがいるから」
その言葉に、微笑む彼女とその向こうの忍足医師を見る。
「『健康相談』、予約は直でしてき。
仁王が知っとる連絡先から変わっとらんから、聞いてええよ。
福利厚生内やのぉて、彼氏の同級生の好で聞いたる」
恋愛相談は割と得意やで、と忍足医師。
「おじだりぜんぜぇ」
「そないに泣かんときや。
ブスになんで」
「突然、優じぐなーい」
「なんやとっ俺の半分は優しさでできとるわ」
えぐえぐと泣きながら、嘘だぁ、と言う繭結。
「『侑士』なのにぃ、やさしさのつわものなのにぃ」
「よお、下の名前まで覚えとったな」
「割と名前覚えるのは得意なんですー!」
「あなた、『侑士』って名前だったのね」
「え?今更ですか?」
侑士ねぇ、と見上げるカヅに嘘やろ、と苦笑いした忍足医師。
「私の中では『忍足君』か『ユウスゲの君』、若しくは『歩くアフロディジアック』」
「それ、もうええです。
そして、また懐かしいあだ名を...」
「ん?なんで『ユウスケ』なんですか?」
ゆうし、なのに?と泣きやんだ繭結の問いに、違うわ、とカヅが首を横に振った。
「『夕菅』よ。花の名前。
そうねぇ、先日の白髪の彼は...『花独活』かしら」
「相変わらずですねぇ」
変わらん人やな、と言った忍足医師。
「『ハナウド』?」
「調べてご覧なさい。
きっと彼にピッタリの花だから」
カヅの言葉に、ハナウド、と脳に焼き付ける。
「強くはないけれど、毒性のある花だからご用心」
ふふっ、と笑ったカヅに雅治のニヒルな笑い顔が浮かぶ。
(毒性、ないこともなさそう...)
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