第13章 新生活
数日後。
「さみしくなるね」
そういった総務課の課長に、大変お世話になりました、と頭を下げた。
「いつでも遊びにおいで、と言いたいけれど」
「あはは」
笑って誤魔化し、よかったら、とデパートで買った菓子折りを差し出す。
「本当にご迷惑おかけしました。
ここでの業務で培ったことは、次にも確実に活かします」
「もっとここで発揮してほしかったよ」
「大変、お世話になりました」
「元気でね」
「ありがとうございます」
失礼しました、と総務課執務室を出て、受付係のバックヤードに向かう。
「澤田さーん!」
ちょうど休憩に入ったところらしい彼女を見つけて駆け寄る。
「藤波さん」
「お疲れさまです。
あの、本当にご迷惑おかけしました」
「別に。
私は何も」
相変わらずの彼女に、これ、とコスメショップのショッパーを渡す。
「明日から有給消化に入ります。
お菓子は好みがあるかな、と思ったので。澤田さん、ハンドクリーム、いつもここのですよね」
「よく見てるわね」
「観察力には自信がありますっ」
「『洞察力』では無いところがあなたらしいわ」
どういう意味だ?と思いつつ、ありがとう、と受け取ってくれた澤田。
「あなたの愛想の良さと愛嬌は受付業務向きだけど、余計なものも引き寄せがちだってこと、自覚しておくことね。
私ならあんな地雷アリアリな男、願い下げ」
きれいに笑った澤田。
「っ知ってたんですかっ!?
ケータのことっ!?」
「あなたが来客対応してるのをいつも恨めしそうに見てたもの。
それも、男性の対応している時だけ」
前だって、私の手が空いていてもあなたにばかり声をかけていたし。と言われ、笑って誤魔化す。
「ロードスターの彼によろしく」
「...えっ!?」
「お兄さんに頬にキスしてもらうのが毎朝の日課?」
いいんじゃない?、と誂って笑う澤田に、知ってたんですねっ!?と驚く。
「今回のヒーローなんでしょう?
女の子はね、強いだけじゃダメよ。
守ってもらう弱さもなきゃ、男が振り向かないわ」
じゃあお幸せに、とジャンヴィトロッシのヒールを鳴らしながら手を振る背中に会釈した。
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