第12章 勃発
(忍足先生、雅治さんと同学年、だよね...?
中学で一緒だったんだから、ダブる訳無いし...)
自身どころか、雅治や忍足医師が生まれるよりも、もっと前のリリースだということだけは分かる歌謡曲が、車内に流れている。
交差点を曲がった車に、助手席の雅治が先を差した。
「あっこんドラッグストアでよか」
「近いんか?」
「はい、すぐ裏ですから」
はいよー、と言って駐車場に車を入れた忍足医師に、ちょっと待っててください!と車から降りる。
店に駆け込み、カフェ・オ・レを買って駆け戻ると、車から降りて煙草を吸っている雅治がいた。
「ご迷惑おかけして、すみません」
「わざわざ...おおきにね」
ありがたくもらうわ、と車窓越しの忍足医師に、ありがとうございました、と頭を下げる。
ちょっと、と手招く忍足医師に顔を寄せる。
「元彼、収監まではされへんと思うから、早めに家、越すか転職しや。
どっちもすぐさまできることちゃうから、準備だけはしとき」
「はあ、」
俯いた繭結。
「一回は好いた男や。
そないに思いたない、言う気持ちもわかる。
せやけど、自分、今好きなん誰や?」
それは、とタバコを吸うか悩んでいる様子の雅治を見る。
「そん人守るために、やで。
『その場を離れる』『距離を置く』言うんは『逃げる』んと違う。そこにおる人を放り出すんともちゃう。
誰かの為にやのぉて、自分の為に決めるんやで」
微笑んだ忍足医師は、仁王!と声を上げた。
「禁煙外来の予約、最近、取りづらなっとるから。
やめるんなら早めにお医者さんかかりや。
特に、子ども考えるんやったら、はよやめることをおすすめします」
ほなコーヒーおおきに、と言い残して、忍足医師は車を出した。
「10年も吸っとると、そう簡単には辞めれんぜよ」
「辞める気、あるんですか?」
「繭結、煙草は嫌いか?」
「雅治さんのタバコの香り、嫌いじゃないですよ」
半分ほど吸った煙草。
いつもならもう少し味わうそれを携帯灰皿にしまった。
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