第12章 勃発
「藤波さん、仁王さんには、改めてご連絡さていただきますので、今日のところはこのくらいで」
「あのっ」
聞いていいですか?と繭結。
「彼は、どうなりますか?」
「難しいところではありますが...
死傷者が出ていないとは言え、まあ、殺意まではいかずとも傷つけようという意思はあったと思われるので、傷害罪でしょうが、けが人は出てないので銃刀法違反か...」
うーん、と悩ましげな声を出した刑事。
「責任能力を問えるか、怪しいですか?」
忍足医師の言葉に、はい、と苦々しく答えた。
「刃物の出どころによっては計画性の立証ができますが、それでも、ちょっとあの様子では...」
「彼、そちらさんの世話になるん、初めてですか?」
「ちょっと個人情報になっちまうので、お答えしかねますねぇ。
まあ今日のところはここに泊まってもらうかと」
すみません、と忍足医師の問いには答えず、刑事は出て行った。
しばらくして別の制服の女性が来て、帰って良い、とのことだったので預かられていた荷物などを受け取って、警察署をあとにした。
「さて、どがんするかのぉ」
「今日はもう帰るしかないんちゃう?
自分ら、どこらに住んどるん?」
雅治のロードスターは証拠品として警察に預かられてしまったため、公共機関を使うかタクシーしかない。
「九段下、です」
「皇居挟んで真反対やな」
「等々力ナリ」
「世田谷区なやいかっ!めちゃめちゃ遠いっ」
しゃあないなぁ、と忍足医師は溜息をつく。
「送ったるよ。
九段下までタクるより安いやろ」
「え。でも
忍足先生、ご自宅は...?」
「足立区や。
ええよ、半分乗った船やん」
「繭結ん部屋でいいぜよ」
「あ、そうなん?
九段下ならすぐやんな」
手間やけど一緒来るなら送ったるよ、と言ってくれた忍足医師が配車した車で社屋前に着くと、数時間前の騒ぎは嘘のようにいつも通りだった。
忍足医師についていくと、ビルの駐車場に、黒いメルセデスのGクラス。
「流石は医者。
ドイツメーカーぜよ」
「嫁はんの実家が、京都の雪深いとこにあんねん。
年末年始帰る時、こんくらいの車や無いと持たへんのよ」
後部座席にあったチャイルドシートを助手席に持ってくると、どーぞー、と言った忍足医師に、お邪魔します、と乗り込んだ。
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