第12章 勃発
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「中高テニス部やったし、立海とはよぉ練習試合もさしてもろてたからな」
「雅治さんが、テニス...」
ううーん、と唸る繭結。
「おもろいテニスするやつやったからなぁ」
ノックもなく開いた扉に、お、お疲れさん、と忍足医師は警察署のシャワーを借り、グレーのスウェットに着替えている雅治に手を振った。
「一張羅がトマトまみれぜよ」
「お相手はんに弁償してもらいや
ちゅうか、そなカジュアルブランドを一張羅や言われたら、一級建築士様の生活、心配になるわ」
「医者と比べられたら薄給ぜよ」
「俺、言うて研究職やからそないにもろてないで。
今、建築士て儲からへんの?」
「独立しとぉならまだしも、雇われじゃからな。
資格職と言えど、贅沢な暮らしはできんぜよ」
「土地もよお、買われへんしなぁ。
ちぃと前には、木材手に入らへんで家建てられへん言う話もあったやろ?」
「今は落ち着いてきとるぜよ。
ただ、前ようには行かんのぉ。
景気のいいモンはそうそう建たんぜよ」
どっこも不景気やんなぁ、と嘆息する忍足医師。
(医者にも不景気ってあるんだ)と話を聞いていると、ノックのあと、お待たせしました、とベテランそうな刑事らしき人が来た。
「すみません、お時間かかりまして...
えー、まあちょっと...あちらさんがね、興奮状態で...」
「まあ、あの様子やったら『さてお話を』というわけにはいかんやろうなぁ」
せん妄状態やったし、と忍足医師。
「お話をね、聞けたらと思うですけれど。
まず、皆さんのご関係性を確認したいんですけれども、彼...大迫さんをご存知なのは...?」
おず、と手を挙げた繭結。
「元恋人、です。同じビルで勤務をしていました。
会社は違いますが...」
「お名前頂戴していいですか?」
「藤波 繭結です」
「ありがとうございます。
それから、えーっと...」
「医師しとります、忍足 侑士言います。
彼女の会社の産業医をしています。
今回、彼女が『健康相談』をというとこで出向いてました。
彼とは面識は無いですね」
「あ、産業医さん」
うんうん、と聞いた刑事。
「仁王 雅治。建築士。
彼女ん婚約者じゃ」
「婚約者?」
顔を上げた刑事に、実は、と繭結が話し始めた。
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