第12章 勃発
警察、ともたついていたら、警察呼んだ、という路上の人だかりからの声に、えっと、と辺りを見る。
地面を叩いて悶えている慶太を抑えつけている忍足医師。
車に凭れて座る雅治は、傷口らしき所を手で押さえている。
(なにか...あ、止血。
血、止めなきゃ)
ええっと、とまた辺りを見て、慶太と忍足医師の元に向かう。
「マユっ」
伸びてきた慶太の手に立ち竦む。
「せ、先生、あの、血を止めるのにっなにが...」
ちら、と雅治に視線を向けた忍足医師は、しばらくして、大丈夫や、と笑った。
「けどっ」
「人間、そな簡単に死なへんよ。
それに、アイツ『詐欺(ペテン)師』やからよほどんことないと死なんで」
「ペテン、師...?」
何をふざけたことを、と思ったが、医師である彼がこれほどまでに冷静なので、大したケガではないのか?と、離れとき、と言われて雅治のものへ向かう。
「ま、雅治、さん...」
「繭結」
伸ばされた左手は、ベッタリと赤く染まっていたが、ためらいなくその手を掴む。
「雅治さんっ」
「泣きなさんな。
なに、ちと...掠っただけ、っく!」
「雅治さんっ」
顔を歪める雅治に、そうだ、と道に転がった鞄を漁ってハンカチを探し出す。
「上から抑えればっ少しは血がっ」
「よかぜよ。
もう、遅か」
「手遅れなんて言わないでっ」
雅治の手の上から、ハンカチを当てて両手で強く押す。
「っうっ」
「止まって、止まって!」
「繭結、」
「止まれっ止まれぇっ!」
ボロボロと溢れていく涙が溶ける赤に、何度も叫んだ。
聞こえたサイレンに、ああ、と声を漏らした雅治が目を閉じた。
「だめ、だめっ!
起きて!ねぇ、起きてよっ!
雅治さんっまーくんっ!」
パトカーから出てきた警官が、忍足医師に代わって慶太を拘束した。
ゆったりとした足取りでこちらに向かってきた忍足医師。
「いつまでやってんねん。
ほんまに救急車来るで」
あきれたような声でしゃがむと、ハンカチの下の雅治の手を掴み上げた。
「後ろからキャンプナイフで腰刺されて腹から血ぃ吹き出すて、自分、どんな身体してるん?」
鼻で笑った忍足医師に、完敗じゃ、と雅治はニヒルに笑った。