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カクテルとキャラメル・ラ・テ

第12章 勃発


自身のバックヤードの執務席に戻ると、昼休憩らしい澤田に声を掛けられた。

「高見物産の大迫さんが探してたわよ」
「え、」
「昨日も、あなたが帰ったあと『なにかあったのか』って聞いてきたけど、一応個人情報だから『お答えできません』って言っておいたわ」
「すみません。お手数を...」
「別にいいんだけど、気にかけてくださったみたいだから、お礼くらい言っておけば?」
「そ、そうですね」

お礼か、と財布を手に、アリキュウでーす、とそそくさと執務室を出た。

「きちんと、話さなきゃだよね」

電話、いや、メッセージをいれるか...と建物を出ると、ププーッ!と強めのクラクションに、ビクッ!と振り返る。

「あっ!」
路肩に止められたメタリックグレーのロードスターのドアが開き、降りてきた人物に駆け寄る。

「繭結、」
「雅治さんっ」
ゆらっ、と立つ姿に抱きついた。

「近くに用があったからのぅ。
 そんなにまーくんが恋しかったがか?」
「ふふ。
 ねえ、雅治さんっ」

ぱっと顔を上げた繭結の明るい表情に、嬉しそうじゃのぉ、とその頭を撫でる雅治。

「私、」
「繭結っ!」
「え?」

ハッとして言葉を遮り、どこが焦ったような表情の雅治が見る背後を振り返る。


ロードスターのサイドドアにぶつかる。

車体に体を押し付けるように重なった雅治の背中。


「キャーッ!」

少し遠くからの甲高い女性の声から、都会のざわめきがすべて自分に向かって発せられているような感覚がした。

「きさんっ」
絞り出すような雅治の声に、なに?と訳が分からないまま車に張り付く。

「返せっ」

金切り声のような声に、ゾクッ、と背筋が凍る。

「返せっマユは僕のだっ」
「人を...っ所有物をごた、言うもんじゃなか」
「かえせよぉお!」

うぐっ、と言う雅治の呻き声のあと、メタリックグレーの車体に、ピッ!と残ったひとつの朱。

「堪忍なぁ、仁王。
 俺、そんな脚、速ないねん」

わあわあと喚く声の中に混ざった声に、雅治の陰から顔を出した繭結。

「忍足先生っ!?」
「警察呼べるか?今、手ぇ離されへんねん」

道に慶太を捻じ伏せた忍足医師は、間一髪やんけ、と片足で踏みつけた彼の右手のナイフを革靴で蹴り飛ばした。

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