第2章 はじまり
-マユ!-
「何の用や。こげな夜中に」
ちょっと、と伸ばした手を掴まれて、唇に触れた煙草のフィルター。
-マユに変われっ-
「ぬし、誰や?」
-お前こそ誰だっ
ひとの女に手ぇ出しやがって-
「他人の女?
なに言うがか、マユはわしの女じゃ」
-はぁっ!?ふざけんなよっ-
「ほたえなや。
ぬし、今どこにおる?」
-え、-
「話ばつけないけん事がありそうじゃのぉ」
ポケットから取り出した古いライターの蓋を開け閉めする、カチン、カチン、と言う金属音。
「話ばしよう。
ぬし、アシは持っとるがか?」
-関係ねぇだろ、マユを出せ-
「質問に答えんしゃい」
ゆっくりとした口調のあとに、カチン、カチンと繰り返される金属音。
押し問答の会話を聞きながら、渡された吸い差しを興味本位ですう、と吸ってみた。
「っゲホッゴホッゴホッ」
苦い煙に咽ると、口紅がついたそれを取り上げて口に咥えたマサが背中を擦る。
-マユっ?マユだよなっ!?
繭結っ俺だっ-
「おんし、声聞くだけでこげな...
なしてすぐ話さんかったがか?
はよ、話してくれとったら...」
「っや、ちがっ」
「何か違うがか、ああ、泣きなさんな」
「だって、」
煙が、と言いかけた唇を指先で塞がれる。
「マユはこげな状態じゃ...
なあ、元彼、わしとサシで腹割って話そうや。
おんし、今、どこにおるがか」
-っ俺はっまだ別れたつもりはねぇ!-
一口吸った煙草を指で摘みながら、切れた、と繭結の携帯を見るマサ。
「悪く無い演技じゃった」
「そんなつもりじゃなかったんだけど...
ねえ、返して」
伸ばした手からひょいと携帯を遠ざけられた。
「ケータ...
大迫 慶太が元カレじゃな?」
「え?あ、そうです、けど」
それが?と聞こうとした時、ほれ、と返された携帯。
「なにをしたの?」
「イリュージョン、じゃな」
「イリュージョン...?」
ふい、と彼が視線を飛ばした方に、なに?と向きかけた顔。
肩を抱き寄せられ、また、キスをされた。
苦い煙草の味がする舌。
舌先が痺れるような味に、これが喫煙者とのキスか、とぼんやり考えながら目を閉じた。