第10章 Fake?
「今日は、帰りなさい」
「え?
って、昼休みっ!?」
とうに午後の業務が始まっている時間に、ぎゃあ!と叫ぶ。
「体調が悪くなったってことにしておくから。
そちらの総務の係長とは、仲いいのよ」
「でも、私昨日も休んでて...」
「あら、信憑性増していいじゃない。
荷物は取ってきてあげるから。ロッカー、どこ?」
「けどっ」
「今一人になったら、彼、なにしてくるかわからないわよ」
ビクッ、と怯えた繭結に、鷹司が言った。
「明日、11時に医務室に来てくれる?
総務には話しておくから」
「医務室、ですか...?」
「少し、お話しましょう」
「はい...?」
「荷物、ロッカーにあるだけ?」
「あっ、はいっ」
待っててね、とルージュがしっかりと発色している唇に微笑みを携え、建物へと向かった。
「繭結」
呼ばれて振り返ると、不安げな瞳の雅治に笑う。
「帰れって言われちゃいました」
「上司なんか?」
「いえ。
元彼の上司なんですけど、実は、このビルの所有者がお祖父様だとかで...」
「やっぱりそうじゃったか。
こん建物、所有は『鷹司ホールディングス』じゃろう。
そうある名前と違うき、関係者じゃろうとは思ったが」
「有名なんですか?」
「土地関係の仕事をしとるやつで、鷹司の名前を知らん言うやつはモグリか詐欺師じゃ」
嫌でも聞き馴染む、と言う雅治に、ものすごいお嬢様なのでは...?と知る。
程なくして建物から出てきた鷹司。
「ご迷惑をおかけします」
荷物を受け取ると、渡された二つ折りの紙。
「彼の事、上司としてきちんと管理するわ」
『産業医面談予約表』と書かれたそれには明日の日付。
「まずは、きっかけの実績づくり」
そのために、と微笑む鷹司。
「ちょっと変わった...変わった?
んー、胡散臭いところのある医者だけど、ちゃんとスペシャリストよ」
担当医の欄に押印されている「忍足」という印鑑。
「おし...あし?」
後から繭結の手元を覗き込んだ仁王が、おしたり、と呼んだ。
「あなた、関西出身だったりする?」
「いや。
こん医者、関西弁で話すメガネの男と違うか?」
「関西訛だけど、メガネは掛けてないわ、今は。
安心して。
既婚者の子持ちよ」
まじか、と仁王が溢した。
✜