第9章 ジェネレーションギャップ
雅治とのキスは、苦い。
特に、舌を絡め合うキスは。
「んっふっ」
鼻から息が漏れると、ギュッと抱きしめられる。
苦しさに、トントン、と雅治の肩を叩いた。
「繭結、」
「ん」
小さく頷く。
「好かんこと、あるかのぉ?」
「好かん、こと?」
コツ、と額を合わせた雅治を上目に見る。
「しとぉないこととか、あるなら言いなせぇ」
「ええっと...
特には、」
「遠慮はしなさんな」
スリ、と背中を撫でる掌の熱に、体を擦り寄せる。
「雅治さんに、委ねます」
「殺し文句じゃのぉ」
くっくっと低く笑う雅治。
「一応聞くけんど、バージンではないでね?」
「っ違いますっ」
「よし、わこうだぜよ」
「その『よし』が怖いッ!」
「心配しなさんな、おなごを傷つけるような事はしぃせんぜよ」
ちゅ、と髪を払った額にキスをすると、唇を重ねた。
✜
「ん、」
コロン、と寝返った繭結の額にかかる細い髪を指で払う。
咥えた煙草に火をつけると、下着だけ身につけて長く放置していた携帯を手に取る。
一昔前に流行り、今では最古参の一人になっているソーシャルゲームのログインボーナスをゲットしてコミュニティを確認する。
とっくに下火となっているタイトルだが、Levelマックス値で過去のガチャ限定レアアイテムフル装備している女性を思わせる名前とアイコンのアカウントには、相変わらずフレンド申請が1日一回はある。
それを確認し、1日一回のランダムアイテムを取ってヘルプが来ていたエリアの討伐に繰り出す。
CLEAR! ALL HIT!
画面の中で喜ぶ「化身」に短くなった煙草の灰を灰皿に落とす。
もぞ、と両脇から侵入してきたものにビクッ!とすると、腹部にギュッと抱きつき、背中に感じる温もりと笑い声。
「なんか、真剣そうに見てましたね」
「ただのゲームぜよ」
ゲーム?と画面を覗き込む繭結に腕を回し、前後を入れ替わる。
「難しそうなの、してますねぇ」
「サバゲーみたいなもんぜよ」
討伐援護依頼が届き、中難度のエリアへ向かう。
「これ、雅治さん?」
赤の矢印が頭にある女性キャラ。
「ネカマ?」
「意外とそっち方面も明るいんじゃな」
-行くわよっ!-
『HARU』と名前がついた、なんとも際どく艶めかしい衣装で武器を構えた女性キャラが不敵に笑った。