第9章 ジェネレーションギャップ
「6つって『年の差』って言えるんでしょうか?」
仁王のマンションに帰り、洗い髪を乾かしてもらった繭結が聞いた。
「6つ...
うーん、俺が高校生の時に繭結は小学校高学年じゃろ?」
「そう言われると、離れてるのかも...?」
「歳の差言うんは、年を取るほどに大したことはない気がしてくるのぉ」
「確かに。
中1と小1って聞くと大きい気がするけど、30と23じゃあんまり感じないような...」
「29ぜよ」
「こだわるんですね、そこ」
可愛いな、と少し膨れた雅治の頬に触れる。
「俺の周りじゃと結婚じゃの子どもじゃの言うんは当たり前に話題になるが、繭結の周りはまだ既婚者は少ないじゃろう」
「そうですねぇ。
澤田さんも焦ってるみたいだし」
「誰じゃ?」
「会社の先輩です」
「ほう」
目を細めた雅治に気づき、ちなみに女性です、と伝えた。
「うーん、」
「どげんしたぜよ」
ラグに座る繭結を背後から包み込むように座った雅治が、風呂上がりの香りの肩に顎を乗せた。
「いえ、なんでも」
「言いんしゃい」
「えっと、ケータ...元彼もそうだったのかなぁ、と」
「いくつじゃ?元彼」
「3つ上です。
私と雅治さんのあいだ」
「弟と同い年じゃなぁ」
え?と肩口を振り返る。
「弟さんいるんですか?」
「んー?言わんかったかの?
3つ上の姉貴と3つ下の弟がおるぜよ」
「...お兄ちゃんなの、ちょっと意外」
へー、と驚く繭結。
「長男なんですね」
「安心せぇ、男兄弟がおる」
「...いや、そこ気にしてないですけど」
「親の介護は姉貴にでも頼むぜよ。
なんなら、婿養子になってもいいぜよ。
姉貴が結婚しても、トシがおるから『仁王』の名前は残るぜよ」
「弟さん、『トシ』さんって言うんですね。
あと、お姉さんに押しつけてはダメですよ。長男ならなおさら」
「因みに『俊雅』ぜよ。お父が『俊治』言うからな
言うて、お父も勤め人じゃからな。
家業もさ行も無いぜよ」
「...あっ、『家業』ね
『カギョウ』、『サギョウ』」
今わかった、と笑った繭結の顔を包み込む雅治の手。
「繭結、」
ゆっくりと伏せられる、まつ毛の長い瞼に、そっと繭結も目を閉じた。