第8章 彼が彼氏で、貴方は誰がし?
「幸村?」
どうした?と柳が、テーブルに頬杖をついて微笑む幸村に問い掛けた。
「いや、かわいいなぁ、と思ってね」
「ああ、仁王の恋人、か...?」
「幸村、まさか...」
「違うよ。
へえ、真田もそんな風に考えたりするんだね?」
そんなんじゃない、と烏龍茶を飲む幸村。
「繭結さんだっけ?
彼女も思い切ったなぁ、と思ってね。
あの、仁王と付き合うなんて」
「仁王の周りにいたのは、確かにあのような女史では無いな」
「副業先の客だと言っていたな。
あのような店に来るタイプにも見えないが...」
「そうだね。
でも見てご覧よ。あの仁王の顔」
ん、と真田と柳の視線が向く。
皿に乗った真四角のクロケッタを指差し、あー、と口を開けている仁王に、一口大に切ったそれをフォークで差し出す繭結。
咀嚼したそれをペリエで流し込んだ仁王は、照れた微笑みで見ている繭結と見つめ合っている。
「しかし、交際数日で同居を申し込むというのは、些か気が早すぎると思いますけどね」
仁王が軽く話した二人の馴れ初めに腑に落ちていない様子の柳生。
「警戒心の強い仁王が、あんなに安心した顔を見せられる女性がいるというのは、いいことじゃないか」
微笑む幸村は、それに、とカウンターのグラスを手に取った。
「既婚者が俺の他には年下の赤也だけというのが、俺は不安だけどな。
お前たちこそ、そっち側はどうなんだい?」
ん?と微笑んだ幸村に合わされた目は無かった。
「ねぇ、丸井」
「なんだよぃ?」
空いた皿を片付けにカウンターに入った丸井へと幸村の意識が向いた瞬間、真田、柳生、柳はカウンターを離れた。
「仕事は順調なようだね」
「おうっ!
固定客も増えてきたし、あとは、夜の早めの時間に集客できるといいんだよなぁ」
「プライベートは、どうなんだい?」
「え?」
「言ってるじゃないか、早くみんなの子どもが見てみたいって。
今のところ、答えてくれてるのは赤也だけだよ?」
「いやぁ、俺らも言うてまだ30歳、」
「もう30だよ。
そろそろ出会わないと。
仁王に関してはきっとラストチャンスなのに...」
「なにが『ラストチャンス』ぜよ?」
「うおっ!急に出てくんなっ」
ビビった、と言う丸井。
「お前の話だよ」
微笑む幸村に、仁王が首を傾げた。