第8章 彼が彼氏で、貴方は誰がし?
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「本日貸切」と書かれている、スパニッシュバル『pozo redondo』。
「では、術後の調子は安定しているのだな」
「うん、少しずつ運動も再開してるよ」
「だが、あまり無理はするな」
「やだな、あの頃より体も強くなったんだから」
しっとりと、赤ワインと持ち込みの焼酎を飲む幸村、柳そして真田。
「切原くん、それは桑原くんのグラスですよ」
「うえっ?
ほんとだっ!すんません、先輩」
「構わねぇよ」
「なんだジャッカル、赤也にグラス取られたのか?
ほらよぃ、新しいの」
「悪いな、丸井」
うめぇ!と満面の笑みの切原に、桑原はその姿に呆れつつ笑い、空いた皿とグラスは寄越しなー、と、料理やドリンクを支度しながら飲み食いしている丸井。
カウンターの端でひっそりと座っていた繭結は、カタ、とカウンターに入った雅治に気付き、おかえりなさい、と声をかけた。
数分前に席を立った雅治に(タバコかな?)と思ったが、トイレだったらしく、店に着いてから彼がタバコを取り出したところは一度も見ていない。
「丸井、ペリエもらうぜよ」
おーう!という声に、迷いなくカウンターに入って炭酸水を取ってきた雅治。
「ん?珍しいですね、仁王君。
飲まないのですか?」
料理を次々と出す丸井に、ドリンクはセルフサービス式に変わっていき、白ワインを探し出した柳生が繭結の隣で、ペリエのボトルの栓を開けた仁王に言う。
「そう言えば、私、雅治さんがお酒を飲んでる所、見たことないです。
バーでも飲んでないですよね?」
「当然じゃ。
帰れんようになってしまうぜよ」
「あ、そっか。車ですもんね」
「ああ、そういうことですか」
白ワインが入ったグラスを揺らす柳生。
「飲んでしまっては、運転ができなくなりますからね。
それでは、大切な恋人を送れなくなってしまいますね」
「えっ、私のためですか?」
「柳生、余計なこと言うがないぜよ」
ごめんなさいっ、と慌てる繭結に、落ち着きんしゃい、とカウンターに腕を乗せる雅治。
「繭結のせいじゃなかぜよ」
「でも、」
「気にしなさんな
一緒におりたい、言うだけぜよ」
「っ!」
さら、と髪を撫でられ、微笑んで細められた瞳に、アイスティーのグラスをギュッ、と握った。
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