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カクテルとキャラメル・ラ・テ

第8章 彼が彼氏で、貴方は誰がし?


「雅治さんは左利きです。
 そして、貴方が言った『聞き捨てならんぜよ』。
 雅治さんは聞き捨て『な』らんぜよ、『な』だけにイントネーションがつくはずです。
 貴方は聞きずて『な』らん『ぜ』よ
 イントネーションが2つつきました」
「へぇ」

『今朝の雅治さん』は、すでに諦めたのか、それで?と今朝と寸分変わらない声を出した。

「『匂い』です」
「『匂い』...」
はい、と『車の雅治さん』を見た。

「お二人共、タバコの匂いも香水の匂いもします。
 服が雅治さんのものだからだと思いますが、足りないのは、コンクリートの匂い」
「コンクリート...ですか?」

『車の雅治さん』の驚いた声。

「彼は、壁紙の無いコンクリート打ちっぱなしの部屋に住んでいます。
 薄っすらと、雨上がりの高架下のような香りがするんです、彼の部屋からは。
 その香りは、服、多分、彼の肉体にも蓄積されている。
 香水の中にわずかに感じるそれが薄いんです、お二人とも」

その香りが、と確かめるようにすう、と鼻から息を吸い、うん、と、頷く。

「特にあなたは」
掌を上に向け、『今朝の雅治さん』に向ける。

「あなたからは、花の香がする。
 それも、複数の花...植物園の温室の香り...
 雅治さんじゃないです」

間違いありません、と言い切った。


「さすが、俺の繭結ぜよ」

背後から抱きついてきた腕に驚いて見上げると、お疲れしゃん、といつもの笑顔の雅治。

「さて、どれが本物か、当ててみんしゃい」

向かい合う正面の『雅治さん』。
背後から抱きつく『雅治さん』。
車内の『雅治さん』と3人に囲まれている絵は、なかなかシュールだ。

再度、ゆっくりと三人を見て、ん、と頷く。

「貴方が本物の雅治さんです」

そうでしょう?と微笑みかけたのは、車のもとでしゃがみ込んでいるストリートファッションの男性。

「かなわんのぉ」

完敗じゃ、とその特徴的な黒の癖っ毛を引っ張った下からは、白銀色。

「わー、おんなじ顔が4つ!」

すごーい、とそれぞれを覗き込む繭結に、なしてバレたんじゃ?と本物の雅治は頭を掻いた。

「柳生、はよ繭結から離れんしゃい」
「いや、驚きです」

大変失礼いたしました、ときっちり頭を下げる雅治に、いいえ、と繭結も深く頭を下げた。

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