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カクテルとキャラメル・ラ・テ

第1章 出会い



アクセルを踏み込む音とともにエンジンの回転音が増す。

一気に加速させながらギアチェンジをするマサの横顔から後方に視線を向けると、追いかけてきて、遠ざかる姿。

駐車場に横止めされた白の軽ワゴンの向きとは逆に曲がる。

一瞬見えたナンバーで、サイドガラスの人影が元彼だったことに気づく。

「元彼、おまんの家、知っとるのか?」
「知ってる...
 あなたの店に来るまで、私の部屋にいたから」
「合鍵、渡しとるのかのぉ?」
「渡していたけど、置いて行ったわ」

ふむ、と安定した速度で車を走らせるマサ。

「職場は?」
「知ってる。
 ていうか、まあ、同僚みたいなものだし」
「同期とかか?」
「ううん。
 彼が勤務するビルで受付してるの」

だから毎朝見る、とためらいつつ振り返る。
今度は止めなかった彼。

後に車は無かった。


「ねえ、さっきのボールとエムエーティってなに?」
「わからんづつ返事したがか?」

すいません、と運転席の彼を見る。

「『Ball』は舞踏会じゃ。
 ほれ、シンデレラが行くあの『舞踏会』。
 『M.A.T』は『Martial Arts Tournament』」
「あっ、戦う武闘と踊る舞踏をかけたのね
 で?『Ball』はどこなの?」
「着いてのお楽しみじゃ」

ヤバい案件に乗ってしまったかも知れない、と自宅と同じ方面に向かう道路を走る車が入ったのはハンバーガーショップのドライブスルー。

ハンバーガーショップで舞踏会?とサイドウインドを開けた彼を見る。

「カフェ・ラ・テとキャラメル・ラ・テ」

マイクに向かって発せされた声は、さっきまでの特徴的な低い声とは全く違う、まるで好青年の爽やかな声。

車を進めた受け取り口で、店員から商品を受け取ったあとの、ありがとうございます、も同じ声色で、店を出てから、ほれ、と元に戻った低い声で渡されたカップを受け取るまで、呆然と彼の横顔を見ていた。

「腹話術師なの?」
「いや、詐欺(ペテン)師じゃ」

冗談なのか本気なのか。

渡されたカップの温かい飲み物は、キャラメル・ラ・テだった。
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