第1章 出会い
「別の場所に連れて行ってくれるの?」
「なんじゃ、ココで始める気じゃったか?」
悪くはないがのぉ、と店内を見回すマサ。
「もっとええところ、連れてってやるけぇの」
笑った彼の眦に涙黒子。
あれ?口元の艶黒子がなかったっけ?と、カウンターを回る彼を視線で追いかけた。
「舞踏会に連れ出しちゃる」
裏口から店を出ると、裏手の駐車場に1台だけ停められたツーシーターのオープンカーがハザードをつけた。
「乗んなっせ」
助手席のドアを開け、恭しく手を出す彼の髪色と同じボティカラーに、恐る恐る乗り込む。
「おまん、車、知っとるようじゃな」
「え?」
運転席に乗り込んでエンジンをかけたマサ。
ドゥン、と言う重低音が鳴る。
「乗る前に、ヒールをこげんしたじゃろ?」
広めに取られた足元で、2回、靴をぶつけ合った。
「ああ、あれね。
石とか乗ると汚れるからって」
「男に教わったか?」
ハンドルにもたれ掛かってこちらを向くマサ。
「御名答。
乗ってたのはこんなにかっこいいやつじゃなかったけど」
「当ててやろうかのぅ。
さしずめ、白の軽ワゴンじゃろ?」
「...」
「そんで、このあたりとフロントに青のライトテープがついとるやつじゃ」
足元を差したマサは、ハンドルを握った。
「大正解よ。
1億点あげる」
「まーくん人生最高得点じゃ」
それはおめでとう、と言いかけた言葉は、まあ、と握られた手に途切れた。
「ほぼほぼ、カンニングじゃけどな」
カンニング?と彼が気にするルームミラーに映る後方を振り返ろうとする。
「見たらあかんぜよ」
ドッドッドッと鳴るアイドリング音が心音と共鳴し始める。
「うそ、」
「おまんが店に来た時からおったぜよ。
だいぶ前からつけられとったようじゃな」
フロントに青いライトがついた白の軽ワゴンは、駐車場の入り口に横付けされている。
その車から降りてきた姿に、息を詰めた。
目の前をよぎった手が、シートベルトを掴んで腰元まで引っ張る。
「決めんしゃい」
「え?」
「行き先はM.A.T?それともBall?」
こちらを見たまま、右手でギアをドライブに入れたマサ。
(エムエーティ?ボール?玉?)
また、チラ、とルームミラーを見た視線に、彼の左手ごとシートベルトのバックルを掴む。
「ぼ、ボール!」
「後悔はさせんぜよ」