第8章 彼が彼氏で、貴方は誰がし?
「昼休みに連絡してね」
いってらっしゃい、と微笑む顔に、は、はい、と返事。
「はよ、慣れんしゃい」
「無茶を言わはる...」
「迎えん来る。待っとくがぜよ」
「その好青年な顔から雅治さんの低音訛が出ていることがすごく違和感です」
「ははっ、おもしろいね、お前は」
「何を信じればいいのっ!?」
「己ば信じんしゃい」
前を向いた、雅治曰く「イリュージョン」した彼に、いってきます...?と曖昧な挨拶。
「運転、お気をつけて...?」
「ありがとう。繭結もね」
じゃあね、と走り去った車。
「本当にどうなってんの...?」
実は本物の詐欺師だったり?
新手のロマンス詐欺に引っかかってる?と疑問だけが湧き上がる。
「私の知ってる雅治さんが雅治さんじゃない可能性もあるってこと...?」
ゲシュタルト崩壊になりそう、と疑問だけを胸に勤務先へと向かう。
更衣室で制服に着替えていると、出社してきた澤田に声を掛けられた。
「ねえ、今日、送ってもらった?」
「え?ああ、まあ」
「お兄さんって言ってたわよね?あのロードスター」
「はぁ」
よくご存知で、と車種を当てた彼女を見る。
「おいくつ?お兄さん」
「え?あー、にじゅうく...いやっ26ですっ!」
話は繋がっていない!
今は『兄』について聞かれているのだ!と自分に言い聞かせる。
「お仕事は?」
「なんか、いろいろやってます。
ドライバーとか漁師とか」
は?と眉を顰める彼女。
「建築とか」
「現場職なの?」
「いや、建築士だとか...?
っなんかっ凝り性の飽き性で資格取っちゃ転職してを繰り返してるので、職業不詳なんですよねっ
バーでバイトしてるとかも聞くしっ」
「ふぅん」
まずいっ興味を持たれてしまったか!?と焦る。
「いい年してフラフラしててっ
『いい加減結婚してほしい』って付き合ってる人にも言われる始末でっ」
すでにヒトのものであるとアピールをしておく。
実際の兄は全く女っ気のない童貞野郎だが。
「仲がいいのね」
「あー、まあ、唯一のきょうだいなんで...」
そう、とロッカーの鏡で化粧を確認し、お先に、と背を向けた澤田。
ガチャン、と閉まったロッカー室の扉に、はぁああ、と大きなため息が出た。
✜