第8章 彼が彼氏で、貴方は誰がし?
ティロリン ティロリン ティロリン
ティロリン ティロリン ティロ
「アラーム停止」と書かれた文字を指でなぞる。
「ん、」
隣で動いた白金の頭が、もぞもぞと布団に潜り込んでいく。
薄い唇のすき間から、すうすうと寝息を立てている寝顔を見る。
(綺麗な顔、)
猫のように掛け布団を巻き込んで寝ている雅治。
昨夜。
上がってきんせぇ、と差し出された手に彼の寝床へと上がると、「今日からはココが寝床ぜよ」と肌掛けを手に広げられた腕の間に招き入れられた。
そういう雰囲気になるのかな、とドキドキしながら1枚の布団に二人で収まると、彼は寝床にあった小さなオルゴールを鳴らした。
ゆっくりと回るオルゴールは「ゆりかごのうた」を奏で、どこにあったのか。小さなライトでポテチの星空を照らした。
くるくる、ゆらゆらと天井を彷徨う光に眠気を誘われて、いつの間にか寝落ちていた。
✜
「よく寝れたが?」
「おかげ様で」
よかったぜよ、と洗面台の鏡の中で、歯ブラシをくわえて微笑む雅治に、借りたカラーアイロンでセットした髪を微調整して、交代ね、と鏡前を譲る。
「朝は食べる派?」
「ほどんど食わんぜよ」
それっぽい、と笑い、熱の引いたヘアアイロンを片付ける。
「職場まで送るが、支度ができたら言いんしゃい」
「ありがとう」
先に洗面所を出た雅治。
着替えとメイクを済ませ、突発的に休んだせいか、久しぶりに出勤する感覚でリビングに向かうと、荷造りをしている
「誰?」
「彼氏を忘れるなんて、ひどいな」
艷やかな黒髪が緩やかにウェーブしている、20代前後の青年がそこにいた。
「たまには出勤しないとね」
ビジネスバッグを閉めて穏やかに微笑む青年に、本当に誰...?と後退る。
「プリッ」
「本当に雅治さんなのねっ!?」
不敵に笑う口元に、嘘ぉ、と歩み寄る。
「『幸村 精市』っていう、学生時代の同級生だよ。
前にうちの事務所に来た時、事務の子が『かっこいい』って言ってたから、ちょっとこの姿で行ってみようかな、と」
どう?と体の後ろで手を組み、微笑む青年。
「多重人格、ですか?」
「なりきっとるだけぜよ」
「っ雅治さんだっ!」
「ふふ、驚いた?」
いい反応だ、と微笑む青年に雅治の面影は無く、メイクだけでここまで変われるのか、と繭結は驚嘆した。
✜
