第7章 住所不定 無職...かもしれない
今日はここに泊まる、と言う雅治。
サア、と先ほど交代した浴室から聞こえるシャワーの音に、クローゼットをあさる。
「雅治さんが着れそうなもの...
雅治さんが着れそうなもの、無いッ」
元彼は、都度着替えを持ってきていたし、あったとしても雅治の身長と合うはずが無い。
「うーん、部屋着が買えそうなところはもう閉まってるし...
コンビニに何かあるかな」
スウェットくらいならあるかも、と財布を手に浴室のドアをノックする。
「雅治さーん、ちょっとコンビニ行ってきますねー」
キュ、とコックが閉まる音がした。
「雅治さんが着る服が無ので。
スウェットとかならコンビニにありそうなんで、見てきますね」
すぐ戻りますから、と背向けた浴室のドアが開いた。
「今晩だけのことぜよ。
服くらい、無くてんよか」
「そんなっはぁっ!」
振り返った頬に当たる湿気を含んだ温かい空気。
「これ、借りるぜよ」
す、と棚のタオルに伸びた腕に、どうぞ!と背を向ける。
「見られて困るモンじゃなかぜよ」
「見えたら困るんですよっ」
「生娘かや」
「せめて下は隠してっ」
「なに考えちゅうが。
めんどいおなごじゃのぉ」
「っすいませんね!面倒な女でっ!」
タオルを押し付けると、受け取った雅治が、待ちんせえ、と腕を掴む。
「『めんどい』は『恥ずかしい』いう意味ぜよ」
「っどちらにしてもいやっ!」
「許しとぉせ。
てがいにでもしちょらんと、やっとられんぜよ」
「てがい...?」
「『からかう』いう、意味ぜよ」
どちらにしても嫌だ、と解放された腕に、脱衣所のドアを開ける。
キッチンでコップに水を注いでいると、濡れ髪で着ていた服を再び着てリビングに来た雅治。
「お水、飲みます?」
「もらうぜよ」
はい、と渡したコップに雅治が口をつけると、ピンポーン、とインターホンが鳴った。
「マユ、奥に行くぜよ」
空にしたコップを押し付けられ、玄関から死角になる部屋の角に押される。
なんも無いの、と舌打ちした雅治が、玄関へと向かった。
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