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カクテルとキャラメル・ラ・テ

第7章 住所不定 無職...かもしれない



「本気で言ってます?」
「『本気』と書いて『まじめ』と読むぜよ」
「...あれ?
 このやりとり、2回目じゃない?」

そうじゃったかのぉ、と携帯灰皿に灰を落とす雅治。

「で?どがんするぜよ?
 新しい部屋が見つかるまでホームレスか、今すぐ荷造りしてウチに来るか」
「...ネットカフェに」
「嫁入り前のおなごが寝泊まりする場所と違うぜよ」
「レディースフロアがありますー!」

すう、と雅治が吸ったたばこの先が赤く灯る。

「平日退社後、18時から翌7時まで11時間。
 12時間利用として1日2,000〜3,000円。
 次の部屋に入居できるまで最短1カ月として30日。
 約9万円の出費。
 同等の部屋を探すとして、初期費用、荷運び賃、ざっくり見積もってまあ25〜30万。
 ここ、家賃いくらぜよ?」

ほわ、と開いた雅治の口から燻る紫煙。

「9万5千...家賃補助が出てて実質8万です...」
にゅ、と目の前に出てきた節の目立つ手。

「4万でよかぜよ」
「え、」
「そんかわり、いってらっしゃい、おかえりのキスと寝る前のハグがお約束じゃ」
「は、」
「職場までの送迎付きじゃ。
 悪くはない条件と思うがのぉ」
「...それはつまり、同棲?」
「新妻になってくれてもいいぜよ」
「スピード婚どころじゃない」

目の前に垂らされたのは、車のキーとともにキーリングに下げられた雅治の部屋の鍵。

え?とその向こうの顔を見ると、ゆらゆらと左右に揺らされる鍵。

「おまんはハイと言う、ハイと言う...
 ハイと言え、ハイと言え」
「もはや脅迫っ!?」

やめなさいっ!と目の前で揺れる鍵を掴んだ。

「掴んだ言うことは、成立じゃな」
「確信犯っ!?」
「クーリングオフは受け付けとらんぜよ」
「どこの悪徳通販かっ!?」

繭結が掴んだ鍵をキーリングから外すと、契約の証ぜよ、と手中の鍵ごと、その拳を掌で包みこんだ。

「さて、合鍵をどかんやったかのぉ」
「え?嘘でしょ」
「んー...?
 さて、過去の自分との心理戦になりそうな予感じゃな」
「しっかりしてぇっ!思い出してぇっ!」

 ✜

後日、大捜索の末、合鍵は、洗面所の吊り下げ棚の扉の内側に貼り付けられていた。

「なして、こげなところに...」
「こっちのセリフだわっ!」

 ✜
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