第7章 住所不定 無職...かもしれない
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「実家どこぜよ?」
「は、八丈島で、ございます...」
「...兄貴がおるとか言うとったがじゃろう」
ええっと、と目を泳がせた繭結。
「高校卒業後、進学した東京の専門学校を3週間で自主退学。
両親が学費を入れていた通帳を空にして『探さないでください』一言の手紙と共に送り届けて行方知れず。
6年前の地元の成人式にひょっこり現れたかと思ったら、『俺の人生の相棒だ』とゴリゴリのデコトラで登場。
『金はきっちり返す。自由にさせてくれ!』とどこで稼いだか学費分だけ入った通帳と解約済みの携帯を残し、フェリーでデコトラと共に旅立って以来、寅さんよろしく風癲野郎。
2週間ほど前にハガキを受け取った実家の両親曰く、『消印から見るにその頃は鹿児島にいたようだ』とのこと」
はい、とリビングで縮こまる。
「おんしのはちきんぶりは、遺伝のようじゃな」
「嫌っ!
あんなのが兄貴というだけで、地元では『要注意人物』扱い!
短大進学のためにこっちに行くってだけなのに『どこぞのヤクザの女になったらしい』『いや、イタリアでマフィアに入るそうな』『産業スパイとかいうのになる学校に行く』とかあり得ない噂をひそやかれながらフェリーに乗り込んだ18の私を思い出させないでっ」
「...っヤクザ...マフィアっ...くくっ」
「駄菓子屋のおばちゃんなんか、『お骨入れられんかも知れんから、爪だけでも置いてくか?』とか言うしっ」
「よか姐さんやったんじゃな」
「きょうだい揃って住所不定はマズイのよっ」
藤波家の恥の上塗りになってしまう!と頭を抱える。
「とりあえず、不動産屋さんに連絡っ!」
契約書に記載された連絡先に取り急ぎかけた。
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-すでに解約手続きが済んでおりますので...-
「改めて契約するというのは?
敷金礼金、払いますのでっ」
-実は、そちらの地区、やはり人気がありまして...
すでに仮契約が...-
「...どうにかならないですか?」
-あの、なにかご事情が...?-
「...いえ。大丈夫です。
はい、すいません。失礼します」
そうですか...?と不審そうな不動産仲介業者に、すみませんでした、と告げ、電話を切ってため息。
「アイツ、疫病神だったんだっ!」
ベランダで煙草をふかしていた雅治が、のお、と呑気に言った。
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