第5章 生まれ変わって
「手続きやのは後々、また改めて考えるぜよ。
しばらくはうちにおんなっせ」
「そんな、今日の今日で...」
一旦、部屋に入って話し合うことにした二人。
遠慮の欠片もなく部屋を見回した雅治は、カーテンレールや空調の上、トイレ、浴室、クローゼットの中まで確認した。
ちょっと、と止める繭結の制止を振り切り、ベッドの枕の裏からマットレスの下。キッチンのシンク下の収納まで覗き込んだ。
「カメラや盗聴器は無さそうじゃな」
「大袈裟じゃないですか?」
「そうとも言えんぜよ。
合鍵、渡しとったんじゃろ?」
「返してもらいましたから...
カードキータイプだし」
ふむ、と玄関の靴一つ一つまで調べた雅治は、腰を浮かせて曲げた膝に腕を乗せた姿勢で、玄関ドアを見ながら言った。
「カードキーのスペアは、シリンダー錠ほど簡単にはできんが、不可能では無いぜよ。
このタイプの鍵は、カードのICチップもしくは磁気テープに登録したデータを読み取って解錠、施錠をするもんじゃが、他の機械でデータを抜き取り、別のカードに登録してしまえば、合鍵になりうる。
それなりの知識がある人間になら、できんことは無い」
ん、と黙る繭結。
「元彼は総合商社勤務の『やり手の若手』じゃと言うておったな。
不動産関係にツテは?
うまいこと言って、システムの仕組みや合鍵の作り方を把握しとる可能性は0じゃあないんじゃなかか?」
「こ、怖いこと言わないでくださいっ
そんな人じゃないですよっ」
「男をなめると痛い目、遭うぜよ」
ジロッ、と下からこちらを見たアイス・ブルーの瞳。
蛇に睨まれた蛙のように固まった繭結。
フ、と笑って立ち上がると、組んだ腕を広げ、来んしゃい、と微笑む。
ノロノロとした足取りで歩み寄ると、頭を抱き寄せられ、彼の胸に額が当てる。
「すまん、怖がらせたの」
「ううん、」
「繭結、」
開け放たれた部屋へつながる扉から、室内の閉め切られたカーテンに遮られた陽の光は入ってこない。
半歩、身を引いた雅治を見上げると、重ねられた薄い唇がやはり少し冷たい。
彼に借りたティントタイプの口紅が乗る唇で温めるように、強く押し付けると、頬を包む手の指先が器用に髪を耳に掛けた。
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