第5章 生まれ変わって
自分たちのいる方角とは逆に向かったタクシー。
「行くぜよ」
手を引かれてもつれる足が少し、震えている。
「あ、郵便、」
入り口の集合ポストを振り返ると、どれじゃ、と聞かれて自身に充てがわれたボックスを示す。
出てきたのは、ダイレクトメールと管理人からのお知らせ。
「部屋、行くぜよ」
それらをグシャリと持った雅治は、部屋の前まで来ると、ナンバーの札や扉をチェックし、鍵貸んしゃい、と手を差し出した。
タッチ式のカードキーを渡すと、扉に耳を当て、片手をドアノブにもう片手で持ったカードで解錠する。
ガチャ、という解錠音に、繭結の脈が早くなる。
少し開いた扉から中を覗いた雅治が、体で玄関ドアを開けて、何かを拾った。
それは、手帳を破いたような紙。
「『また来ます。 ケータ』」
「なんで、」
「大方、復縁でも迫りに来たんじゃろう」
「まさか、」
「『試し』行動のつもりじゃったんかもしれんなぁ」
ふ、と鼻で笑う雅治。
「『別れたくない』とおんしに縋られたかったんじゃろう
が、ハズレたもんじゃから後悔しとるんじゃ」
おもむろにライターを取り出すと、摘んだ紙の角を炙る。
「ちょっと、」
紙を摘んだ指を開き、危ない、と言う繭結を抱き寄せた。
「もう手遅れじゃ」
黒い墨となってコンクリートの床に落ちた灰と化した手紙を、ザッ、とサンダルで散り払った。
✜
「火災報知器がなって、スプリンクラーが稼働でもしたらどうするんですかっ!?」
「あの程度でなるもんかの?」
「なりますよっ」
玄関用のほうきでかき集めた燃えカスを湿らせたキッチンペーパーに包んだものを入れたビニール袋をギュッと縛ってゴミ箱に捨てた繭結。
しまったのぉ、と口元に手を当てて考え込む雅治。
「『ストーカー』として通報する事も出来たんじゃった」
「いやっ、たったの一回で...」
「交際関係はすでに消滅しちょる。
自宅に押しかけて復縁を迫る行為は、充分にストーカー行為ぜよ」
そうじゃ、と拳を手のひらにポン、と乗せた。
「マユ、うちに来るき」
「はい?」
「引っ越しなんせ」
「...はぁ?」
それがいいぜよ、と笑う雅治に、空いた口が塞がる訳がなかった。