第4章 恋人-TRICK STAR-
元彼が車で来る時に使っていた自宅近くのコインパーキングは軽専用なので、最寄りの安価なコインパーキングを探す。
「あ、あそこ、上限有りで1,200円」
「遠かろう。もう少し近くに停めるぜよ」
「駐車場代、高く付きますよ?」
「構わん」
目的地です、と告げたナビに、んー、と周囲を見回しながら走らせると、「大型車可」と書かれた15分440円最大3,700円の駐車場に車を入れた雅治。
向こうじゃったな、とナビで見た方へと歩き出す。
「自転車、来るぜよ」
少し先に行った彼の背中。
通り過ぎたスポーツサイクルに、ん、と差し出された左手がおずおずと差し出した右手を掴んで並んだ。
「あ、あそこです」
見えてきた自宅を指す。
「何階じゃ?」
「2階です。204号室」
マンションの入り口が見えてくると、待ちんしゃい、と立ち止まった雅治。
「おんし、元彼、どこに住んどる?」
「神楽坂ですけど...」
それがどうかしたのか?と見上げると、向こうを睨むアイス・ブルーの瞳。
「ナンバー、八王子じゃったな」
「え?ああ、そうですね。
よく覚えてましたね。確か、名義はお父さんにしてるとかで」
「戻るぜよ」
「え?」
回れ右した雅治に手を引かれる。
「『練馬』ナンバーのタクシーがおった」
それが?と少し後ろからの横顔を見上げる。
「『迎車』じゃった。
おかしいと思わんか?
ここまで配車依頼するのに、わざわざ練馬地区のタクシーを呼ぶかの?」
それって、とわずかに振り返る。
「こげなところで止まるんは、客を降ろした時くらい。
それなら、表示は『支払』もしくは『空車』にしとるはずじゃ。
『迎車』言うことは、練馬からここまで来てすでに次の客がおる言う事。
乗せた客に『すぐ戻るから待っていてくれ』と言われて待っとる状態じゃ」
角まで戻ると、背後に繭結を立たせ、張り込みよろしく顔を覗かせる。
「あれ、元彼と違うがか」
そっと顔を出して見たタクシーに乗り込む姿。
スーツ姿の男に、あ、と指先で雅治のカーデガンの袖を掴んだ。
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