第4章 恋人-TRICK STAR-
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「本気で言ってます?」
「『本気』と書いて『まじめ』と読むぜよ」
『マジ』じゃないのかい、と心の中でツッコむ。
俺と付き合ってみんか?
そういった仁王さんは、タブレットを脇に避け、
カットソーの裾を整えて比較的体にフィットしたジーンズなのに、脛を撫でるようにして払うと、硬いフローリングに正座で座る。
「仁王 雅治。御年29歳。
家族は父、母、姉、弟。それぞれ一人ずつおります」
「...ハイ」
突如始まったプロフィール公開に戸惑う。
「職業は建設関係の資格職。
バーテンダーのアルバイトもしています。
年収は昨年ベースで本業が800万程度。アルバイトで月4〜5万の小遣い稼ぎもしています。
持つ資産は、車一台、2年程度なら自分ひとり無職でも生活できる程度の貯蓄、現在は両親が住む都内の一軒家、これに関しては姉弟と財産分与による。(両親に隠し子等いなかった場合を想定)
座右の銘は『黒い白馬にまたがって前へ前へとバックした』です」
「は、はぁ」
「身長は180-1cm、体重は最近測っていないのでわかりません。スリーサイズもわかりません。
好きなタイプは、素顔を見せてくれる、そうですね、例えばカウンターで一人、初対面のバーテンダーにクズ男の愚痴をこぼしながら笑うような女性です」
「おい、こら」
バカにしてんでしょ、と細めた目に差し出された手。
「第一印象から惚れていました。
よろしくお願いしますっ」
「...恋愛リアリティショー?」
それか婚活パーティ?と下げられた白髪が上がる。
「飽きはさせんぜよ」
まるで男子高校生のような爽やかな笑顔の涙黒子。
2年と少し付き合った彼にフラれたその日に会った妖しいバーテンダーと昨日の今日で付き合うって大丈夫か?
訝しむ自分と
無難中の無難で行きてきた人生にちょっと刺激的な色をつけるにはいい年頃かも
誘惑されている自分がいる。
白線が引かれた、舗装済みの道ばかり歩いてきた。
道と言えるかも分からない畔を歩いてみるのもいいかも知れない。
それでケガをしたとしても、「もう行かない」と学べばいい。
「藤波 繭結
しがない会社員です。
八丈島出身で家族は両親に兄。
座右の銘は、ありません」
よろしくお願いします、と下げた頭に乗った手は、温かかった。
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