第4章 恋人-TRICK STAR-
手持ちになかったヘアアイロンだけ拝借し、よし、と脱衣所を出る。
「におーさん?」
いない?と部屋を見渡すと、ベランダらしい窓が開いていた。
「あ、いた」
「ん、終わったかの」
ぷかぁ、と口から吐き出された紫煙。
「腹が減った」
のそり、と部屋に入ると、ピシャッ!と窓を閉め、施錠して、シャッ!と厚手の遮光カーテンをぴちりと閉めた。
なんとなく、後ろをついていく。
食材があるのだろうか、という疑問に答えたのは、2ドアの冷蔵庫にあった瓶酒とジュースとミネラルウォーター。
なんもないのぉ、と次に開いた冷凍庫には袋入りの氷となぜかみかんが3つ入っていて、コロン、と庫内で転がった。
「あの、この近くってモーニングしてるようなお店って...」
「覚えにないのぉ」
「コンビニでも行きますか?」
「あっちにセ◯ン、こっちにL◯W◯O◯、向こうにフ。ミ◯があるぜよ」
「うん、あっちこっちと言うなら指をさして
それか目線を向けて」
冷蔵庫のみかんを指で弾いて、冷蔵庫を閉めた仁王に、わからない人だ、と笑った。
「おなごは笑っとるのが一番ぜよ」
ふわ、と笑った顔に見とれていると、行くぜよ、と隣を通り過ぎた彼から苦いタバコの匂いがした。
✜
コンビニには徒歩5分もかからなかった。
入店してすぐに雑誌の棚に向かった彼と会話を交わすことも無く、パン2つと紅茶を選ぶ。
お礼には軽すぎるだろうが、気が済まないので彼の買い物があるなら一緒に会計しようと雑誌コーナーに行くが姿が消えていた。
「520番、一つ」
背後の棚からたばこを選ぶ店員とジーンズのポケットからジャラ、と小銭を出している仁王。
たばこをレジに通す店員に、慌ててパンと紅茶を台に置く。
「一緒に会計してくださいっ」
わかりましたー、と言った店員に、散らばった小銭をかき集めて彼のポケットに戻す。
「おい、」
「払わせてください」
「おなごに銭を出させるのは、」
「そういうの、いいんで」
「自分の分だけ払いんしゃい」
「そういうわけには行きません」
タッチパネルの年齢確認に、「20歳以上」を選択し、クレジットカード支払いを選ぶ。
「おかげさまでポイントが貯まりました。
ありがとうございます」
「はちきんなおなごじゃ」
袋詰めされた商品を手に取ると、行くぜよ、と猫背な彼とコンビニを出た。
