第4章 恋人-TRICK STAR-
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パァンッ!
「っわぁああ!」
なにっ!?と飛び起きる。
「なに?発砲事件!?」
「風船ぜよ」
ふーせん?と少しキーン、となっている耳を押さえて声の方を見ると、左手にアイスピックを持った銀髪男。
ゾッ、として肌掛けを手繰り寄せる。
(え、誰...?)
徐々にパニックが解けてきた頭が、そう言えば、と昨夜のことを思い出す。
「...に、におー、さん??」
「まーくんぜよ。−3億点じや」
「え、なんの得点...?」
まーくんて、と溢した呼び名に、記憶が鮮明になっていく。
「えー、昨晩は本当に、多大なるご迷惑をおかけして」
「迷惑とは思っとらんぜよ」
なんて優しい人なんだ、と、梯子からロフトに乗り上げた姿を見る。
「昨日のことはな」
「ん?」
昨日のこと「は」?と首を傾げる。
「けたたましゅうて堪らんぜよ」
「え?」
首を傾けて片耳に指を入れ、ほれ、と放り投げられたのは自身の携帯電話。
(あ、)
すみません、とアラームを止めた。
充電満タンの画面が示す時刻は08:45。
「仕事始まってるしっ!」
遅刻どころじゃない!と慌てて立ち上がると、ゴツンッと頭頂部に衝撃。
「痛った」
「ええ音がしたのぉ
大丈夫かやぁ?」
「星がっ回ってる...」
「星はいつでも回っちゅうが」
天井の、それも出っ張りの角にぶつけた頭に手を当てる。
「切っとらんかが?」
見せんしゃい、と手を退けられる。
「ああ、これじゃな。
血は出とらんが。
ただ、冷やした方がええじゃろう」
待っときんさい、と四つん這いで低いフェンスに手をかけると、ひょいと飛び降りた。
嘘でしょっ!?とゆっくり動いて下を覗くと、猫背に歩く背中が見えた。
(髪、長かったんだ)
ウルフカットの後頭部は長く垂れていて、結んでたのかな、と曖昧な昨夜の記憶を必死に呼び戻した。
「あてときんさい」
「ありがとうございます」
レジ袋に詰められた氷を包んだタオルを受け取り、頭に当てる。
「仕事は休みんしゃい」
「え?」
カシャ
「ん?」
「こげな顔の受付係、会社の『顔』には向かんぜよ」
向けられた携帯の液晶の呆け顔は、確かに酷かった。
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