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カクテルとキャラメル・ラ・テ

第3章 仁王 雅治



時計の無いこの部屋は、全くの無音だった。

ロフトが寝床らしく、シャツを着た彼が一時間ほど前に「おやすみぜよ」と上がってから、本当にいるのかと思うほど気配が無い。

使いなっせ、とロフトから投げ落とされた枕と掛け布団。
薄く軽い割に暖かい布団の中で寝返る。

なんとなく背向けていたロフトを見上げると、微かに壁が白く発光しており、起きてる、とその光を見つめる。

日付なんてとっくに回っていて、明日はいつも通りの平日だから早く寝なきゃならないのに、一向に眠気は来ない。

(そうだ)
彼に借りたUSBタップに挿した手持ちの充電コードに繋がった携帯を手に取る。

マップアプリを開き、現在地から会社への経路を検索する。

(あ、バス停近いんだ。
 7時...45分に出れば余裕で間に合うや)
いつもより少し早く起きなきゃ、と見ていると、通知バーが降りてきた。

 -起きとるんか?-

『MASA』からのメッセージに体を起こす。

「起きてます」

上に向かって掛けた声に、ヒョコ、とロフトから出てきた白銀色の頭。

「寝れんがか?」
「うん、」
「...来るか?」
「え?」

来んしゃい、と手招くマサに、布団から出て梯子に手をかけた。
胸下まで上がると、ん、と差し出された手を取ってロフトに上がる。

「これは?」

敷かれた布団の枕がある方の天井に、点々と見える白い光。

「星座?」
星空みたい。と見上げる。

「そこに、仰向けになってみんしゃい」

壁に背中を預け、片膝を立てて座る彼が示すのは、薄いマットレスの上の枕。

マットレスに乗るのは気が引けて、横から頭を乗せて視線を上げる。

「こぐま座、おおぐま座、ケフェウス座、カシオペア座じゃ」
「カシオペア座しか知らないや」
「今日は曇っとるから、どれも見えんな」

天気がいい日はベランダから見えるぜよ、と天上の星空をさす指先。

「蓄光シール?」
「いや、ポテチの袋じゃ」
「ポテチっ!?」
「食べ終わった袋を捨てに行くのが面倒でのぉ
 切って貼ったんじゃ」

見る限り、ロフトには鋏も糊もテープも無い。

「捨てたほうが早かったのでは?」
「...気づかんかった」
「嘘でしょっ!?」
「ピヨ」

ポテチの袋の星空を見上げているマサの銀髪が、切れた雲間から姿を見せた月明かりに照らされてキラキラとして見えた。

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