第3章 仁王 雅治
(長っ)
くるくると裾を捲り上げ、袖の絞りを肘上まで上げる。
借りた黄色のジャージの胸元と背中には、「RIKKAI UNIV.」の刺繍。
胸部と腹部下、裾に黒ラインが入っていて、肩から腕にかけて白地に赤で校章の様なマークが入っている。
パンツの横にも同様に白地に校章マーク。
ジャージの裏には、「仁王 雅治」と刺繍が入っている。
(立海大附属出身なのかな)
キュ、と首元までチャックを閉めて、そっ、と扉を開く。
「あの、お風呂、ありがとうございました」
「ん?ああ、俺も入るかの」
こちらに来るマサ。
「冷蔵庫に飲みもんがある。
好きに飲んでええぜよ」
「あ、ありがとう」
ひら、と手を振って浴室に向かう背中。
少しの静寂の後、シャワーの水が床に叩きつけられる音が微かに聞こえた。
それに意識が向かないように、バッグのポーチからトラベルサイズのボトルに詰め替えたスキンケア用品を取り出して、せっせとスキンケアに勤しむ。
「あ、ドライヤー...」
洗面所も兼ねる浴室で見つからなかったそれに、どうしよう、と肩に掛けたタオルで濡れ髪をゴシゴシと拭く。
「変なの」
このまま一晩過ごすのだろうか...と、ふと存在を忘れかけていた携帯を手に取る。
彼からはもちろん、共通の知人からの連絡も無く、このままこれが当たり前になるんだろう、とため息をついた。
「充電が無いの」
「っうっひゃあぁ!」
「おっと」
突然聞こえた声に、後を振り返ると後頭部に当たるぬくもり。
「そこ、柱の角があるけぇの」
気をつけんしゃい、といったマサ。
「ああ、やっぱり濡れたままじゃ。
先、使いんしゃい」
ほれ、と差し出されたドライヤーに、はい、と手を差し出すと、そこに置かれた。
「って、何か着てくださいっ」
「ん?」
被ったタオルから片目を見せるマサは、ボクサーブリーフ一枚。
「なんじゃ、じっくり見てもいいぜよ?」
つ、と顎を上げて笑うマサに、結構です!と脱いだジャージを押し付ける。
「着ときなんせ」
「結構ですっ」
キャミソールじゃなくてタンクトップで良かった、と押し付ける。
受け取られたジャージに安堵すると、背後から漂う温もり。
ふわ、と肩にかけられたジャージからは、洗剤の香りがした。
「鎧じゃと思って、着とくぜよ」
背後から前に来た手が、器用に箱棒へ蝶棒を通した。
