第3章 仁王 雅治
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「ダイジョウブデス
カエリマス」
「おまん、口開けたワニが待つ沼に飛び込む気か?」
どんな例えだ、と彼を見る。
「下どころか、覗き穴の死角で虎視眈々と座り込んどるかも知れんぜよ」
それはちょっと怖い、と肩に掛けたバッグのハンドルを掴む。
「出会って数時間の男性と、一つ屋根の下で一晩過ごす度胸も無い女ですから」
「安心するぜよ。
おなごを無理やり手籠めにするほど餓えちょらんぜよ」
でしょうともよ、と背の高いマサの顔を睨む。
少しは明るい場所で見た顔は実に整っている。
つり目気味のシャープな目の中の瞳がアイスブルーなのは、カラコンなんだろうか。
「不正解じゃ。
髪も瞳も、自前ぜよ」
「っミックス?」
人の考えを読めるのか...?と少し、距離を取る。
「元はロシアからアラスカに渡った民族系の男は、音楽で夢見て出てきたニューヨークで出会ったコリアン系の女と間に子を成した。
が、うだつが上がらんとその男を見捨てて日本に来た女は、職場の運送業の社長とデキて社長夫人になってありったけの金を持って母国に帰って行方知れず。
まだものも言えんまま残された乳飲み子抱えた男をかわいそうに思ったおなごは、男と子供の面倒を見てやるようになり、家族当然に暮らしていたが一向に結婚する意思を見せない男に詰め寄るも逃げられ、残されたのはもう堕ろす事も困難な周期の胎児と借金しかない会社。
泣く泣く、産んですぐに手放したと聞いた子じゃったが、今はどこで何をしとるか...」
「ちょっ、ちょっと待って!
え?えーっと、つまり...ん?
ロシア人とコリアン系アメリカ人との子?
それともコリアン系アメリカ人と日本社長との子?
え?あと...なんだっけ?
ん?最後に手放したっていう子どもは誰の子?」
パニックに陥った繭結。
「お父は建設会社で働いとるぜよ」
「...ダメだ、理解が追いつかない」
「わしも3回見てやっと相関図が理解できたストーリーじゃった」
「あなたのことじゃないのねっ!?」
「題名が確か、ミックスなんとか...」
「身の上話かと思って真剣に聞いた私の真摯を返してっ!?」
「プリッ」
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