第18章 家族
「トラウマ、なのかなぁ」
どうなんだろう、と洗濯物を畳みながら考える。
「正直、もうどうでもいいんだよなぁ...」
我ながら薄情だな、と約2年付き合った彼の顔こそ覚えているが、即座には思い出せなくなった声に気づく。
「なんだっけ、亡くなった人って声から忘れていくんだっけ
いやっ、死んではないわ」
ごめんケータ、と心の中で謝っていると玄関先で物音がした。
煙草を買いに行った雅治が帰ってきたんだろう、とおかえりなさーい、と玄関に顔を出した。
「あら、本当にいた」
時間かかりましたね、と言いそうになったが、そう言った女性に、え?と隣の雅治を見る。
「すまんのぉ、繭結。
ちぃと部屋ば片付けてくるけ、適当に相手しとぉせ」
はい?とコンビニのビニールを片手に引っ掛けて、両手をジーンズのポケットに突っ込んだまま、猫背に隣を通り過ぎた雅治を、ちょっと!と捕まえる。
「どっどちら様ですかっ!?」
「弟ぜよ」
「お、とうと...」
弟?と玄関を、ふーん、と見ている彼女(?)を再び見る。
「今は姉貴のトシマサじゃ」
「...は?」
どういうこっちゃ?と混乱していると、待ってよー、と新しい声。
今度は20代半ばと思われる青年がやってきた。
「弟のちぐさぜよ」
「仁王 ちぐさですー。
よろしくね、えーっと繭結ちゃん?」
はーい、と手を挙げる彼(?)に、はあ、と呆けて慌てて挨拶する。
「藤波 繭結ですっ
あの、えっと、雅治さんとお付き合いをさせていただいておりましてっ
お見知り置きくださいっ!」
「やだ、かわいい」
「へっ!?」
雅治とよく似た声に言われ、つい照れてしまった。
「って違うっ!」
しばらくして、ハッ!とする
「えーっと、すいません、初対面のご家族がこうだとさすがに混乱するので一旦、ご本人に戻ってもらっていいですか?
あと、雅治さんはあなたですよね?」
そう言ってトシマサを示した繭結。
「うそ」
「じゃから言うたじゃろう。
通用せん、と」
そう言ってカツラを取ったトシマサは雅治。
「で、トシマサさんですね?」
袖を摘むように捕まえていた雅治の姿を見上げる繭結。
「何者?」
雅治からは、彼とよく似ているがほんの少し高い声が聞こえた。