第5章 百合の子(緑谷出久)
「甘井ちゃん、どうしたん?」
いつの間にか、お茶子ちゃんが私の横に駆け寄ってきた。
「ん?何でも!峰田くんがうっざいからちょっとアレしただけ」
「甘井!うざいとか、言うんじゃねぇよぉ……!」
峰田くんが泣きそうな顔をしたけど、どうでもよくて無視をした。
それよりも、お茶子ちゃんと話したいわ、私。
「ねぇお茶子ちゃん、ホンっと男子って変な事しか考えてないから近づかない方が、いいよ」
「甘井ちゃん、ホント男子嫌いやね……でも、デクくんとか飯田くんとか轟くんは、大丈夫やろ?」
「んー……」
私は、固まって何やらクソ真面目な話をしてそうな3人に視線を移した。
緑谷くんは……嫉妬はするけど、お茶子ちゃんの好きな人だから、まぁ大丈夫かな。
飯田くんは……お茶子ちゃんの友達だから、何とか。
轟くんは……その2人の友達だから、ギリギリ。
許容範囲は、この3人位かな。
あとは、無理。無理むり。絶対無理。
指一本、触って欲しくない。
そんな事を考えていると、緑谷くんと目が合った。
すると、何とも純真無垢な笑みを向けられた。
……きっと、緑谷くんが女の子だったら、好きになってたかも……
あ、物理的に男だから、無理だけど!
「甘井ちゃん?」
お茶子ちゃんに呼ばれて、はっと我に返る。
「あ、ごめんお茶子ちゃん!ボーっとしちゃって」
「今デクくんと、目合っとったね!」
「うん?別に何とも、思わないけど」
ちょっと目が合う事なんて、誰にでもあるし。
「……そっか」
お茶子ちゃんが、ちょっと寂しそうな顔をした。
「……緑谷くんって、お茶子ちゃんの事、好きだよね、きっと」
私がそう言うと、お茶子ちゃんは寂しそうな顔から一転、顔を真っ赤にしてあたふたする。
「そ、そんな事ないやろ!デクくんが、そんなん!」
「お茶子ちゃんも緑谷くんの事、好きだし?両想いじゃん」
「そんなんと違うって!ちゃうちゃう!」
緑谷くんに視線を移したお茶子ちゃんが、呟いた。
「そんなんと……違うよ」
「?」
私は、その言葉の真意が分からなくてただ首を捻った。