第1章 限定って言われると欲しくなる(ホークス)
そう。
目の前に出されたそれは、ゲロ甘で有名な限定物の缶コーヒーだった。
おっさん、こんなん飲むんか……
「缶コーヒー位、色んな所に売ってません?」
私がそう尋ねると、ホークスの代わりに購買のお姉さんが答えてくれた。
「あぁ、その缶コーヒーねぇ……地域限定らしくて、この辺じゃうち位にしか売ってないらしいのよ」
そんで、お姉さんとホークスは顔を見合わせて「ねーっ」とか笑顔で言っている。
ねーって何……いい大人が……大丈夫なのか……?
「おいしいらしいわよぉ。あなたもおひとつ、いかが?」
「……いや……クリームパン、ください」
何か、後ろからキャーキャー声が聞こえてきたので、私は120円をお姉さんに払ってそそくさとその場から立ち去った。
購買部から逃げるように屋上への入り口へ来た私は、ドアノブをガチャガチャと力任せに回した。
このドア、普段は開かないけど5回に1回くらいの確率でこうすると開く。
屋上って何か、気持ちいいんだよなぁ。
だから、たまーに1人で来ちゃうんだよね。
ガチャン
開いたあぁぁ!
天国っ!
「やっぱり、ここ来るんだ」
ヘラヘラと笑うホークスと鉢合わせした。
……地獄……
「おっさ……にいさん、何でいるんですか……」
「今、俺の事おっさんって言おうとした?ひどいなぁ」
ひどいなぁと言ってる割には相変わらずヘラヘラしてる。
このままここに居たら、このおっさ……にいさんとマンツーマンで会話しなきゃならなくなる。
何だろ、何か……キッツいわ……
今日は、夢の屋上ランチは諦めよう。
「私、教室戻ります」
回れ右してドアノブに手をかけると、いつの間にか私と距離を詰めていたホークスが、顔を覗き込んできた。
「今日は偽物、つけてないんだ」
そう、今日のまつげの装備はマスカラだけ。
だって、あんな事言われたら、ムカつくもん。
だから、マスカラで頑張って頑張って頑張ったんだから。
「べ、別にお、にいさんに言われたからじゃないです……」
何だか、ホークスと呼ぶのが恥ずかしくておにいさんとか口走ってしまった。
よく皆、『ホークス~♡』とか、言えんな……
「ふぅん、そうなんだ?」
私を覗き込むホークスは、余裕の笑みで。