第14章 可哀想な2人(相澤消太)
そもそもコイツはどうなんだ?
好きな男でもいんのかよ……
好きな……
好き……
『私は相澤さんの彼女でもなんでもないんで!』
いつかの繭莉の言葉が脳裏によみがえった。
確かにアイツは俺の彼女でもなんでもない。
少なくとも俺がアイツの事を好きなのは認める。仕方ない。
だが、アイツはどうだ?
どう、どうって……
「相澤先生~?どうしましたぁ?」
生徒にデカめの声で呼ばれて消太ははっと我に返った。
生徒の前で、好きな女について悶々と考えていた自分は相当ヤバい奴だ。
「いや、なんでもない」
「……?ふぅ~ん?」
「あ!やばっ、練習始まっちゃう!」
「ホントだ!じゃあね相澤先生!」
バタバタと走り去っていく生徒達を見送った消太は、溜息を吐くと職員室に向かって歩き出した。
「……はぁ……」
ここの所、溜息しか吐いていないんじゃないかと思う程溜息を吐きながら職員室に入った時、そこに見慣れた人物を発見してしまう。
「根津校長、本当にありがとうございましたぁ!」
「こちらこそ、助かったのさ!またなにかあったらいつでも言っておくれ」
消太の気持ちなど毛ほども知らずに暢気な声を出す、その人物は根津からなにやら茶封筒を受け取ってほくほくしている。
茶封筒の中身は恐らく給料なのだろう。
今時、手渡しかよ……
そんな事を思っていると、その人物こと繭莉が消太の視線に気づいたらしく顔を上げた。
「……あ」
しかし、一瞬目が合ったと思ったらすぐにツンと顔ごと視線を逸らせて繭莉は消太に背を向けた。
「おい」
いつの間にか、ここが職員室だという事も忘れてその手を掴んでいた。
「え?」
「どういう事……?」
それまで各々作業をしていた周りの教師たちの驚きの視線が2人に注がれる。
「な、なんですか!」
「なんですかじゃねえだろ」
繭莉が逃げられないように掴んだ手にぐっと力を入れた。
「この間からその態度……どういうつもりだ」
「だから!言ったじゃないですか、私相澤さんの彼女でもなんでもない!」
こんなんは、完璧に他所でやるべきただの痴話喧嘩みたいなもんだ。
しかし、そんな事を考える余裕が何故かなかった。
周りの好奇の目に晒されるのもお構いなしに2人は言葉の小競り合いを止めようとしない。