第14章 可哀想な2人(相澤消太)
「何1人でブツブツ言ってんだ?」
分かってはいたが歩み寄りながらそう聞くと、繭莉は消太の目の前に分厚い台本をじゃーんと見せた。
「昨日、貰ったんですドラマの台本!根津校長が読みながら仕事してもいいのさって言ってくれたから、お言葉に甘えてちょっと練習してました」
ふぅんと思っていると、「でもなぁ……」と少し不満気な表情を見せるので、こんな高給取りが何を不満に思ってるんだと言いたくなった。
「やっぱり、相手がいないと1人で練習するのも限界が……あっ、おにいさん!今ヒマそうですよね?」
「俺は暇じゃない」
そう言ってはみたものの、多忙でもない。
嫌な予感を感じて、逃げ出そうと彼女に背を向けようとすると服の裾をはしっと掴まれた。
「おにいさん、しょうたくんになってください!」
嫌な予感は、的中した。
「これの83ページから練習したいんです!」
台本を胸にぐっと押し付けられて、もうそれを受け取るしかなかった。
パラパラと83ページまで台本を捲ると、冒頭に『翔太は真宙に背を向ける』と、説明書きがしてあった。
翔太……
俺に、この翔太になれっていうのか……?
こんな所を生徒やら誰やらに見られたら何を言われるか分かったもんではないし、相当面倒くさい頼み事だが「だめですか……?」と、見上げられて何故か首を横に振れない自分を馬鹿かと呪った。
「……読むだけだからな」
そう釘を刺すと、ぱっと繭莉の表情が明るくなる。
「じゃあ、翔太くんの台詞から始まるんで、どうぞ!」
仕方なく、かなりの棒読み加減で消太は台本の台詞を読み始めた。
「俺にはもう、過去の記憶がない」
その台詞で、これは一体何のドラマなんだとツッコみたくなったが彼女からしたら千載一遇のチャンスとも言えるドラマなので、そこら辺は黙っておく事にした。
「翔太、待って!」
ぱしっと手を掴まれて、コイツもう役に入り切ってると思いつつその真剣な眼差しから目が離せなかった。
「あなたの事、私は忘れた事なかった……だから、記憶なんてなくたって構わない」
一呼吸おいて、繭莉が消太を見つめたまま言った。
「翔太が好き。それだけじゃ、だめ……?」
消太は、一瞬まるで自分が告白でもされたような気分になってしまった。
……
いや、待て。
違う、そうじゃない。