第14章 可哀想な2人(相澤消太)
消太は今の今まで一度もこの木に触ったら運気爆上がりしましたというように、あなたとヤったら運気爆上がりしましたという報告は受けた事はない。
いや、わざわざ言う奴もいないだろうけど。
「よかったな」
少し考えるのが面倒くさくなってそれだけ言うと、繭莉は「よかったですぅ!」と、笑顔になった。
そういえば、酔ってやさぐれている所か泣いている所しか見ていなかったので笑顔を見るのは初めてかもしれない。
好みの顔の、笑顔。
可愛……いや、なんだ……別に、俺は……
そりゃ好みなんだから、可愛いんだろうよと自分にツッコんでしまった。
繭莉のドラマ出演が決定した事で何故か少しの間、部屋が喜びに満ちたほんわかムードに包まれた。
「はっ!バイトの面接!遅れる!」
突然そう叫ぶといそいそと服を着だした繭莉を見て、思考回路が通常運転に戻っていた消太も学校の存在を思い出した。
急いで服を着ると、何故か2人揃って家を出た。
「ドラマ決まったのにバイトすんのか」
俳優も大変だと思いながらそう聞くと、隣を歩きながら「そうなんです」と返事をされる。
「今バイトしなかったら、今月の水道代とガス代と電気代、払えないんで……」
「何のバイトすんだ?」
ちょっとした興味で、聞いてみる。
すると、目の前に「4」と指を広げられて4が何か関係しているのかと想像は出来た。
「学校のお掃除です!1日やるだけで4万円貰えるんですよ!?掃除だけで!もう、面接受けるしかないって思って!」
そんな、バイトに1日4万も寄越す学校、どこにあるんだか……
その学校の校長の顔が見てみたいと思いつつ、雄英への道を歩き続ける。
しかし、その後ろを繭莉もついてくるもんだからこれは……と怪しい気持ちになった。
「お前、学校って……」
「雄英?でしたっけ?そう、雄英!受かれば4万!生活潤う~!」
きゃっきゃと浮かれる繭莉の横で、消太は気が遠くなりそうになった。
マジかよ……
あくまで受かればの話だが、このままではこの好みの顔と定期的に顔を合わせる羽目になりそうな予感がする。
そんなんじゃいつか沼にハマ……いや、違うだろ……何考えてんだ、俺……
脳裏によぎった沼にハマりそうという妄想を無理くり消し去っていると、いつの間にか雄英に到着していた。