第34章 蝶の庭と、火薬の匂いの少年
煉獄家での情熱的な日々から少し離れ、私は蝶屋敷の庭先で、穏やかな午後のひとときを過ごしていた。
そこには、まだあどけなさが残る、けれど確かな成長を感じさせる二人の姿がありました。
「……あの、さん。これ、……食うか?」
ぶっきらぼうに差し出されたのは、小皿に乗った可愛らしい飴細工。
玄弥くん。彼は、兄である実弥さんのような鋭い眼光を持ちつつも、私と目が合うとすぐに視線を逸らして、耳まで真っ赤に染める。
「ありがとう、玄弥くん! 嬉しいわ。一緒に食べない?」
「……俺はいい。……お前が、美味そうに食ってるのを見てる方が……その、落ち着くから」
玄弥くんは私の隣に座ると、大きな体を縮こまらせて、不器用そうに自分の膝を抱えました。
「兄貴や柱の人たちみたいに、気の利いたことは言えねぇけど……。お前が困った時は、俺が真っ先に駆けつけるからな。……火薬の匂いがしたら、俺が近くにいると思ってくれ」
彼はそう言って、私の着物の袖を、子供が縋るようにそっと、けれど力強く握りしめた。
その不器用な誠実さに、私の心はふんわりと解けていった。
「……さん」
反対側から、鈴を転がすような声。
カナヲちゃんが、いつもの不思議な微笑みを浮かべて立っていました。彼女の手には、かつて自分の心を決めるために投げていたコインが握られていた。
「……コイン、投げなくてよくなったの」
彼女は私の膝に頭を預け、猫のように甘える仕草を見せた。
「しのぶ姉さんに、言われたの。『自分の心の声を聴きなさい』って。……今の私の心は、さんに、ぎゅってしてほしいって言ってる」
私は愛おしさに胸がいっぱいになり、カナヲちゃんの肩を抱き寄せた。
「カナヲちゃん……。いつでも、いくらでもぎゅってしてあげるわ」
「……私も、玄弥と同じ。……柱の男の人たちは、激しすぎるから。……私たちが、さんの『止まり木』になるね」
カナヲちゃんの澄んだ瞳が、私をじっと見つめる。
そこには、言葉にせずとも伝わる、深い親愛の情が宿っていた。
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