第5章 無一郎の屋敷にて
義勇さんの道場に着くと、彼は一人で黙々と素振りをしていた。
私たちの気配に気づき、義勇さんが振り返る。
「……か。その羽織は……」
「あ、冨岡さん! 羽織、ありがとうございました。
無一郎くんに貸してもらったので、これお返しします!」
私が畳んだ羽織を差し出すと、義勇さんの視線が無一郎くんへと移った。
無一郎くんは、私の肩を抱き寄せるようにして一歩前へ出る。
「冨岡さん。には僕の羽織の方がサイズが合うから。これからは僕が面倒を見るよ。……いいよね?」
義勇さんの眉が、ぴくりと跳ねた。
「……それはお館様が決めることだ。それに、今は俺の修行期間のはずだが」
「効率が悪いよ。僕が教えたほうが早い。ね、?」
二人の柱が火花を散らすような視線を交わし、その真ん中で私はオロオロとするばかり。
静かな道場の空気が、一気に重くなる。
「……いや、は俺の時も筋が良かった。俺が教える」
「へぇ……。じゃあ、今ここでどっちが教えるのにふさわしいか、決めようか?」
無一郎くんが木刀に手をかけた、その時。
「あらあらあら〜〜〜っ! なあに!? もしかして、一人の女の子を巡って争ってるの!? すっごく素敵! 青春ねっ!!」
桜餅色の髪を揺らしながら、恋柱・甘露寺蜜璃ちゃんが、まるで花の嵐のように乱入してきた。
「甘露寺……なぜここに」
義勇さんが困惑したように声を漏らす。
「お館様への報告の帰りよぉ!
そしたら、すっごくキュンキュンする空気を感じちゃって!ちゃん、モテモテじゃない! 義勇さんも無一郎くんも、顔が怖いわよっ?」
蜜璃ちゃんは私の両手を取って、ブンブンと振り回しながら目を輝かせる。
「いいわねぇ、奪い合い! 私、こういうの大好き!ちゃん、どっちの羽織が温かかったかしら!?」
「えっ、えええええっ!? そ、それは……!」
蜜璃ちゃんの直球すぎる質問に、私の顔は今日一番の赤さで沸騰した。
義勇さんは気まずそうに視線を逸らし、無一郎くんは相変わらず私の肩を抱いたまま、不機嫌そうに蜜璃ちゃんを睨んでいる。
混沌とする現場。私の修行生活は、予想もしなかった方向に転がり始めていた。
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