第5章 無一郎の屋敷にて
無一郎くんに新しい羽織を着せてもらった余韻が冷めないうちに、彼は「じゃあ、そのまま稽古を始めようか」と、まるで呼吸をするような自然さで告げた。
「え、あ……はい! よろしくお願いします!」
私は慌てて木刀を構える。
しかし、無一郎くんの指導は義勇さんのものとは根本から違っていた。
義勇さんが「見て、盗め」という背中で語るスタイルなら、無一郎くんは「徹底的に体に覚え込ませる」スタイルだった。
「、そこ。足の運びがバラバラだよ。もっとこう……」
そう言うと、彼は私の背後にぴったりと密着した。
私の背中に彼の胸板が当たり、彼の腕が私の脇から伸びて、私の手ごと木刀を握り込む。
(ひゃっ……! ち、近すぎる……!)
「力を抜いて。僕の動きに連動して……はい、一歩」
耳元で囁かれる声に心臓が爆発しそうになるけれど、彼は至って真剣だ。
密着した体から伝わる彼の体温と、かすかな香りが思考を狂わせる。
無一郎くんの華奢に見える体は、実際に触れ合うと驚くほど固く、鍛え上げられた剣士のそれだった。
数時間の濃密すぎる(物理的にも精神的にも)稽古が一段落した頃、無一郎くんはふと思い出したように私の足元に置かれた義勇さんの羽織を指差した。
「……そうだ。その羽織、今から返しに行こう。僕もついて行くから」
「えっ、無一郎くんも? 私一人で大丈夫だよ?」
「ダメだよ。君、また変なハプニング起こしそうだし。……それに、冨岡さんにちゃんと言っておかないと。『もうに羽織を貸さなくていい』って」
(それってどういう意味!?)
明らかに目が笑っていない無一郎くんに押し切られ、私たちは再び義勇さんの屋敷へと向かった。
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