第5章 無一郎の屋敷にて
無一郎くんに腕を引かれるまま、私は彼の屋敷である「霞屋敷」へとやってきた。
義勇さんの道場のような重厚な空気とは違い、ここはどこか浮世離れした、静謐で霧が立ち込めているような不思議な落ち着きがある。
「座ってて。今持ってくるから」
無一郎くんは私を奥の部屋へ通すと、手際よく木箱を探り始めた。
私は借りたままの義勇さんの羽織を丁寧に畳んで脇に置き、少し緊張しながら彼を待つ。
「……はい、これ。たぶんサイズも合うと思う」
差し出されたのは、彼の隊服の色に近い、深い青緑色の羽織だった。
受け取ろうと手を伸ばしたけれど、無一郎くんはそれを手渡さず、そのまま私の背後に回り込んだ。
「あ、自分で着れるよ……!」
「いいから。じっとしてて」
耳元で囁くような静かな声。
彼は私の肩に羽織をふわりと掛けると、そのまま離れようとはしなかった。
背後から包み込まれるような形になり、彼の細い指先が、私の首元で羽織の紐を整えていく。
(……ち、近い……っ!)
義勇さんの時はアクシデントだったけれど、今の無一郎くんは意図的にこの距離にいる。
彼の長い髪が私の肩に触れ、微かに爽やかな、けれどどこか冷たい風のような香りが鼻先をくすぐる。
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