第4章 水柱のスパルタ稽古
義勇さんの部屋を辞した私は、借りていた羽織を返そうとしたものの、
「(服が直るまで)そのまま着ていろ。汚れているままだと、お館様に失礼だ」
と押し切られ、結局彼の大きな羽織を肩に掛けたまま廊下を歩いていた。
(……それにしても、さっきの義勇さんの笑顔、可愛かったなぁ)
そんなことを思い出しながらフフッと頬を緩ませていた、その時。
「……何してるの、君」
不意に、背後から冷ややかな声がした。
振り返ると、そこには霞柱・時透無一郎くんが立っていた。 いつもはどこか遠くを見ているような、掴みどころのない瞳。
けれど今の彼は、微かに眉をひそめ、じっと私……正確には、私が着ている「羽織」を凝視している。
「あ、無一郎くん! こんにちは。えっと、これはちょっと事情があって……」
「事情って、何?」
無一郎くんはススッ……と音もなく距離を詰めてきた。
そのまま私の目の前で足を止めると、私の肩に掛かった羽織の袖を、指先で少しだけ摘み上げる。
「それ、冨岡さんのだよね。なんで君が着てるの? 自分のがあるでしょ」
彼の声は静かだったけれど、どこか不機嫌そうな響きが含まれていた。
無表情なはずの顔から、微かな「苛立ち」のようなものが伝わってきて、私は思わずドギマギしてしまう。
「そ、それはそうなんだけど。実は稽古中に服が少し破けちゃって、義勇さんが貸してくれたの。すぐに着替えるつもりなんだけど……」
「…………破けたなら、僕のところに来ればよかったじゃない。予備くらいあるし」
「えっ、でも無一郎くんの屋敷は遠いし……」
「遠くないよ。君が冨岡さんのところへ行くよりは、ずっとマシ」
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